複製芸術の発展によって大衆という概念が現れてくる中で、それに対する作用を最初に意識して「デザイン」というものを考え抜き昇華させていったのが1920年代のソビエト社会だった。映画もその一部で、レーニンは「映画こそ最大のプロパガンダの武器だ」と言っていたぐらいで、それを体現したエイゼンシュテインの映画の1シーン1シーンが今もってすさまじいインパクトを我々に突きつけてくるのはそのためだ。そしてそうした考えを資本主義・消費社会の中で最も巧みに取り入れて成功させた人が、このソール・バスという人だろう。フランケンハイマーの「グラン・プリ」の有名な分割画面も、ヒチコックの「サイコ」のシャワー・シーンも、実はフランケンハイマーやヒチコックが撮ったのではなく、この人のアイデアによるものだと言われている。そのほか有名な「ウェスト・サイド物語」や「黄金の腕」「栄光への脱出」などのタイトルロールやポスター・デザインなどで映画ファンにはお馴染みだが、日本のJOMOやミノルタのロゴマーク、打楽器奏者ツトム・ヤマシタが70年代にやっていたプログレッシブ・ロックのレコード・ジャケットなども描いていることは余り知られていないだろう。これらの事実に興味を持った人は、この本を買われても、決して損はしないと思う。