ポール・サイモン70歳を記念して出されたこの2枚組は、ヒット曲を発表年順に並べただけのいわゆる「グレイテスト・ヒッツ」ではなく、自身を歌手であるよりもパフォーマーであるよりもまず「ソングライター」であると考えているというポール・サイモン本人が曲を選び曲順を決めた「作者自選作品集」である。普通、どんなベスト盤もファンからすれば選曲に不満がつきものだが、この選集は、ビルボード・シングル・チャート1位に輝いた「恋人と別れる50の方法」をはじめ、通常ベスト盤には欠かせない曲がいくつも欠けている。この選集についてのインタヴューで語っているところによると、それらのはずされた曲をサイモンが評価していないわけではないようだが、単にヒット曲や有名曲を並べるだけの「グレイテスト・ヒッツ」はレコード会社が作ればよいという考えらしい。
そのようなわけで、この2枚組はとりあえずベスト盤で代表曲を聴いてみようと思っている初心者にはあまり向かない。そういう人には、2006年の『サプライズ』の曲までを収録したベスト盤『ジ・エッセンシャル・ポール・サイモン』(出来れば限定盤のDVD付のもの)とその後出た今年(2011年)の新作『ソー・ビューティフル・オア・ソー・ホワット』(ビルボード・アルバム・チャート最高4位)をおすすめする。
だが、サイモン自身のこだわりが、この2枚組を、これまでいくつも出ている「グレイテスト・ヒッツ」と一味も二味も違うものにしている。
全32曲の最初に出てくる最も古い歌が一番新しい録音の初出音源(2011年6月6日ニュー・ヨークのウェブスター・ホールでのソロ・ライヴ)で、2曲目の「ボクサー」は1991年のセントラル・パークでのソロ・ライヴ(既出音源)、3曲目の「明日に架ける橋」はアレサ・フランクリンのゴスペル色の濃いヴァージョンとなっているのも興味深い。まるでガーファンクルを排除しているように感じる人もいるかもしれないが、ガーファンクルの歌声の魅力に隠れがちな曲自体の魅力を味わってほしいということなのだろう。「明日に架ける橋」は本来ゴスペルを意識していたと言われるし、以前この曲を扱ったドキュメンタリー番組でアフリカではむしろアレサ・フランクリンのヴァージョンで知られていると言っていたので、あえてそれを収録したのも面白い試みといえる。
しかも、その3曲が全然違う音源にもかかわらず違和感なく続き、さらに4曲目で登場するレゲエに影響されたソロ・ナンバーの「母と子の絆」にもすんなりとつながっていくのを聴くと、S&Gの音源を安易に使わなかったのは正解とも思えてくる。そして、その後の曲も、必ずしも発表年順にはなっていないし、前述のとおり代表曲でももれているものがいくつもあるが、サイモンは選曲と配列と曲間の調整にかなり気を配ったらしく、曲の流れがとてもよい。特にディスク2は、最近の曲を知らない人にこれを一つのアルバムだと言って聴かせてもまったく違和感なく受け容れられるだろうと思うぐらいだ。(なお、ディスク1も2も、輸入盤・日本盤ともに曲順は同じ。)
以上のようなわけで、初心者向きとはいえないしファンにとってはほとんどおなじみの既出音源で、普通ならとても高い評価はつけられないのだが、聴いてみると何がはずされているという不満を忘れてしまうほどに独自の魅力のある選集ではある。そこで、少々評価を上げて星4つとする。