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内容は一見ネオコン批判、ブッシュ政権批判に見える。ナイ教授がクリントン政権で国務次官補にあったという予備知識を持つ方にとってはなおさらであろう。しかし、注意して読めばその内実は単に「アメリカの力の源泉のひとつであるソフト・パワーを意識してそれを活用することで、国際社会におけるアメリカの優位をさらに持続する」ことを訴えているに過ぎない、ということに気づくはずである。その意味で、決して広義のリベラルの主張ではないことには注意が必要だ。他のカスタマーの方も指摘しておられる通り、ソフト・パワーを端的に言い換えると「洗脳」である。「権力による最高の統治は、抑圧していることを自覚させず、自ら権力に従うようにさせることである」という政治的箴言があるが、それを実現させるための方法のひとつがソフト・パワーであると言えよう。
すでにソフト・パワーということばをご存知の方にとっては新味ある内容ではない。というのは、ナイ教授は学生・研究者向けと一般向けの著書で、ずいぶん内容を変えているようだからなのだ。国際政治・外交に関心のある向きには、この本よりもむしろ、学生向きの教科書としてすでに版を重ねている同教授の「国際紛争」をお勧めする。最新版にはソフト・パワーの話題も登場する。教科書とは言え、一般の社会人の方が読んでも、十分楽しめる内容となっている。
魅力によって、相手の行動に影響を与え、自分の望み通りの結果を得る力、ソフトパワー。文化や政治的価値観、政策、国際機関などがその源泉となる。この新しい力の側面に本格的なメスを入れ、膨大な具体例で実証を試みたのが本書である。魅力的な理論の精緻化に加え、それを裏付ける莫大な資料の数々には頭が下がる一方である。
ソフトパワーという新しい力の存在を意識して、改めて国際政治を眺望してみると、その複雑怪奇な権力闘争の場裏がより明らかになる。たとえば、冷戦は、米ソ二大国による、ハードパワーのみならず、ソフトパワーの増長をめぐる競争であったという捉え方も可能となる。世界政治が、軍事力による強制や経済力による誘導のみでは動いていないことを、改めて強く認識させられる。
また、ソフトパワーがハードパワーでは果たしえない効力についても言及している。たとえば、「アレクサンドル・ヤコブレフは1958年に政治学者のデービッド・トルーマンとともにコロンビア大学で学んだことから、強い影響を受けた。やがてソ連の重要な研究所の所長になり、政治局員になって、ゴルバチョフ書記長に自由化政策を進言して主要なブレーンになった」とあるように、ソ連崩壊の末端には、アメリカの魅力的な交換留学制度があったことを指摘している。
著者特有の易しい文章に加え、訳者の高度な翻訳技術もあいまって、とても読みやすくなっている。国際政治を専攻していない学生や一般の方々にも、新しい世界の見方が身につく本書をぜひ手にとってもらいたい。
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