プロジェクト型問題解決の素晴らしいサンプルであるとともに、孫社長の哲学が凝縮された良書。新30年ビジョンの完成品と一緒に、その製作過程までもがパッケージになっており、コンテンツに多くを学べるとともにケーススタディーとしても役立つ。
「情報革命で人を幸せに」という一言には、本業を通じて社会への貢献を成すという組織の本質が詰まっている。300年先まで続く組織基盤を築いた人物として覚えられたいと言い、愛と志を後継者の条件として課す孫氏の哲学がそこにはある。
経営の哲学は個々人の生き方にも通じるが、本書が示すのは自らの幸福が社会の幸福につながる生き方ともいえよう。「悩んだときは遠くを見る」という社長の指示から、新30年ビジョンは300年後の予想までもを盛り込んだものとなるが、この言葉もまた、変転してゆく社会の中で自分はいかに生き、何を残すべきかという自らへの内省的な問いへと転化する。
ビジョンを公にし、それにコミットして実現してゆくということ。独りよがりにならずに、理想をみんなと共有し、協力して推し進めてゆくこと。物事を実現してゆくための要諦さえ、このプロセスのなかに盛り込まれている。孫氏はこの壮大のビジョンを「30年に一度の大ボラ」と呼ぶが、壮大なロマンを持つこと自体が組織や個人にとってのひとつの原動力である。願えば叶うものはあまりに少ないが、物事は願わなければ叶わないものばかりなのである。
1時間をかけずにサラサラと読める一書ではあるが、その伝えるところはあまりに深く、濃い。経営哲学でもあり、プロジェクト運営の教科書ともなり、自己実現マニュアルでもある本書の分類は難しいが、それぞれ違う立場を持つ読者各人が、何らかの価値ある学びを得るであろうことは間違いない。