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本書の著者は、そのようにユーモアのある軽妙なエッセーを書ける稀有な存在といえる。
本業が哲学の教授であり、この種のエッセーを書き始めたのが50歳を過ぎた数年前からというから、その意外性が先ず面白い。
手馴れたエッセーという感じではないが、日常の題材を扱い、その恐妻やら、食べることと帰ることばかり考えている助手とか、ユーモア随筆としての脇役も十分揃っている。
それぞれのエピソードには、かなり自虐的な題材が多いのは、日本のユーモアエッセーの伝統のようなものだろうが、それが却って、この著者の誠実な人柄をしのばせるものとなっており、おかし味を漂わせる効果につながっている。
「プロ野球には失望した」の章での 「何故あんなに勝負にこだわるのか」と疑問を提起し、「たかが野球なのだからあんなに必死に巨人に勝とうとするのはおかしい」という論法のように、反語的な表現、二重否定的な言い回しが中々巧妙だ。
それぞれの題材の質はそこそこ高いし、確かに、面白い。
ただ、整体で揉みほぐされる過程で「ううー」「おおー」とか声が出てしまう場合があるように、この本は読んでいるときに肩が震えたり、なにかが腹の底から振動としてこみ上げてくる作用もあるので、電車内読書には時として向かない。
さいきん、形而下的な悩みが多いわたしは、哲学者である著者が形而下の問題を形而上的に扱うことで問題自体、時には自分自身のスタンスさえ溶解させてしまう、強力にして驚愕のこのエッセイですっかり脱力させられた。既刊のエッセイ集も折に触れて買っていかなければ! その際には文庫で買い、電車内で奇異な目で見られることにより、通勤の時間を自分自身を鍛える修行の時間にするつもりだ。
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