桜坂洋
『スラムオンライン』の後日談、「エキストラ・ラウンド」を除く7編は全て『SFマガジン』(以下SFMと略記)に掲載された短編。おそらく単行本には未収録ながら、本誌掲載の短編に全て目を通しているような熱心な読者・SF者にはすでに既読の作品群。(ちなみに私は不熱心な読者なので、7本中3本が未読。その中では、テクノロジーの進歩と文化の関係がテーマの長谷敏司「地には豊穣」が素晴らしかった。)
しかしながら、この短編集はたとえ熱心なSFM読者でも、というか読者であればこそ。巻末の藤田直哉の解説、「ゼロ年代におけるリアル・フィクション」(14頁)。これを読むためだけに購入する価値あり。
これは収録作品の解説に止まらず、リアル・フィクションそのものを総括する評論。収録作品の著者だけでなく、ゼロ年代前半(というのも「リアル・フィクション」と銘打たれた作品が刊行されたのは本解説によれば07年が最後で、また本書に収録されている作品がSFMに発表されたのも海猫沢めろん「アリスの心臓」を除けば05年まで)の「SF冬の時代」を乗り越えたSFの展開と、その中で「リアル・フィクション」がどう位置づけられるかを論じている。
その中心に据えられているのは、昨年の3月号をもってSFM編集長を退かれた塩澤快浩氏だ。氏がSFの再興に果たした役割については今後さらに論じられるであろうけれど、編集長を退かれて1年がたち、氏が誌上で展開された「リアル・フィクション」を総括するのには丁度いい時期であるのか。(それに冲方丁は時代小説を手がけてるし。西島大介はあまりSF描いてないし。)
新たな10年を迎える直前に、評論とあわせてリアル・フィクションの粋である作品群を再読し、冬から初夏に季節が移ろった10年をふり返るのもよいのでは?
願わくば、次の10年が盛夏であることを。