本著は2000年の夏季と冬季号をのぞき、1999年夏季号から2001年春季号の『小説トリッパー』に執筆されたものとある。
薔薇のある墓地、さくらんぼのある家、砂の森、アメリカの晩餐、ゼラニウム、梟の館、の6編で構成される短編集となっている。
『雪沼とその周辺』などこれまで馴染んできたように、もの静かで坦々としているこの作家特有の印象とはちがって、ここにおさめられた短編は少しドラマチックである。
帯には“日常の揺らぎを転写する、あたらしい散文のかたち”とあるけれど、今からみれば10年前の新境地と位置づけられる作品なのだろうか。
確かに、それぞれの作品にはサスペンス風でもありユーモラスな印象をうけとることもできるけれど、やはりこの作家ならではの文体をとおして浮上する独特の地平(文学)が素晴らしいと思うしたいへん魅力的である。
また、滑稽さもあるのだがきわめて洗練されていて上質であるとの印象をうける、というのが正直なところだ。個人的にはゼラニウムが好きなのだが、砂の森や梟の館もよかった。
実話でもなくフィクションともいい切れない不思議なリアリティーを感じることができるドラマチックな一冊といえばいいのか、一編だけでも立ち読みすれば、まちがいなく納得されるはず。どうぞ、お読みください。