電子音主体の作品にも関わらず、人肌の温かさを感じる美しい作品だ。
フォー・テットことKieran Hebdenは1980年イギリス出身。年齢を考えると若手だが、そのキャリアは
1999年から、今作品がフォー・テット名義の5作目というからなかなか長いキャリアを持つ人だ。
本作は基本的に電子音が織り成すループが延々と続く、テクノ系統作品の基本展開に倣っている。
こういう音重視の展開は、下手すれば「雰囲気は良いが聴き終わった後に何も残らない」BGM集になり
かねないのだが、本作では絶妙なさじ加減のアナログ要素(人の声、ギター、ドラム音)が加わることで、
聴き手に何とも美しい余韻を残すことに成功している。
冒頭の「Angel Echoes」ではメランコリックな電子音に、はっきりと言葉として発音されない程加工された
女性の美しい声が乗り、延々とループする。彼の場合音を何重にも塗りたくるのではなく、各瞬間に必要
な要素のみを厳選し音のテクスチュアを組み立てる印象を受ける。その為一つ一つの電子音・人の声・
ビートが際立ち美しく響く。聴き手は電子音一粒一粒を愛惜しむようになり、いつの間にかそのループに
のめり込む程の魅力を本作の音楽は持っている。
他にも「Circling」でのハープ、「This Unfolds」でのレコードのスクラッチノイズや硬質なドラム音等、各所
で電子音とアナログ音が、徹底的に整理された音空間の中で時にせめぎ合い、時に絶妙な溶け具合を見せる。
作品を通して、挿入される人の声も言葉らしい言葉を吐くことはなく、メロディーらしいメロディーも無い。
しかし奏でられる音自体の美しさに思わず何度も作品を通して聴き返してしまう。
万人にお薦め出来る作品ではないものの、電子音の美しさを堪能したい方は一聴の価値ありだ。