田辺さんが30歳半ばで芥川賞を受賞された表題作がスゴイ! 美人ではないが恋人には事欠かない37歳の有以子と、彼女が心底ほれたマルクス・レーニン主義を唱える「党員」ケイ、そして22歳の新進放送ライター「僕」との三角関係が、苦く切なく、鬼気迫る調子で描かれる。後年の気楽な恋物語とはかなり違う印象だ。
なにより、ケイにふられてボロボロになった有以子と、二人を複雑な思いで見ていた「僕」の、最後の対決シーンには息を呑まされる。大人の打算と人の弱さとがないまぜとなり、罵倒とビンタと誘惑の応酬のなか、二人は駆け引きを続ける。そして、最後はハッピーエンドではなく、苦々しい感慨で締めくくられるのだ。あの時代に「党員」や「党」のことを書いた勇気にも感心させられた。
巻末のインタビューでは、田辺さんの小説に対する姿勢もよく伝わってきた。
ポプラ文庫で始まった、田辺さんのベストセレクション・シリーズは、きれいなものを愛する田辺さんにふさわしい、黒地に甘いコラージュが施された、とてもシックな装丁なのだが、ひとつ重大な不満が残る。出典一覧には、底本のタイトルと出版社しかなく、その作品の初出年がわからないのだ。田辺さんの作風の変遷を知るうえでも、初出年は不可欠だと思うのだが。