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ところが、それを裏付ける科学的根拠が、不足しているというより
も全く示されないまま、ストーリーを展開する上で都合のよいエピ
ソードだけが次々と引用され話は進んでいく。そもそも、脳内セロ
トニンを血液中、ましてや尿中で測定できると考えているところか
らしても著者がこの分野の専門家でないことは一目瞭然。また、
“うつ”や“キレ”に対する効果を前面に出してはいるが、著者の
臨床経験として一体、何人の患者様を担当し、そのうち何人で効果
があったのか、といった核心部分が全く不明である。そして、著者
は、そのような批判を見越したかのように、“本書は科学書ではな
い”と述べておられるが、タイトルに大々的に“セロトニン”との
関連をうたい、本文中には“科学的根拠”と思わせるものを多数列
挙しておいて、それは通用しないでしょう。
文章自体は、一般読者向けなので、大変読みやすく、わかりやす
く、それだけになおさら問題である。
いっそ、根拠が無いなら無いで、“全くの推測ですがこういう可能
性があるのではないでしょうか”、という書き方ならまだ良心的な
のだが、一般読者が気づかない形で科学性を装っているところがま
さに疑似科学である。
本書で今さら紹介して頂くまでもなく、呼吸法や早起き等は健康法
として確立されているわけだから、皆で努めて実践したらいい(セ
ロトニンとは無関係に)。実践されている方も多いことでしょう。
私自身も長年、それらを実践してきたし、私が健康でいられるのは
健康法のおかげかもしれない。ただ、それが脳内セロトニンと密接
な関係があると公言するからには、その根拠を示してほしい。本書
に不満を持つ人達の主張はこの一点に尽きるのではないか。一般大
衆に実践を促すためには、“科学的根拠”と思わせるものが必要で、
そのために“セロトニン”がもちだされたのだとしたら、由々しき
問題である。
一般読者は、著者の肩書きをみて書かれた内容の信憑性を判断する
ことが多いので、現職の医学部教授(しかも生理学)が、“脳”の
ブームや“心の健康”ブームに便乗する形で、この手の本を書かれ
ること自体如何なものか。医学部学生に対する教育の問題もあるし
(学生さんは脳内セロトニンの動態を血液検査や尿検査で簡単に測
定できると思いこんでしまう)、社会にたいする責任もあるでしょ
う。専門家集団できちんとコンセンサスが得られていることを、専
門外の人達にわかりやすくアナウンスするのが大学人の努めではな
いでしょうか。“ゲーム脳”の再来は困ります!!
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