著者はデビュー作同様に相変わらず英語のプレスリリースや、資料の山で四苦八苦しているらしく、歴史や海外事情が分からなくて間違った思い込みや勘違いしたまま解説していたり、英語の資料をちゃんと解読できていなくて間違えている部分が沢山ありました。
しかしたとえ英語が正確に読みこなせなくても、日本語資料を見ればカバーできる部分もあるのが残念です。
では細かいツッコミや小さな勘違いは省略しますが、結構気になった箇所をほんの一部だけ挙げておきます。
・イル・サンピエトロのところで著者が「オーナーのカルロ・チンクエ氏」と会話していているのですが、カルロ・チンクエ氏は著者もたぶん購読しているはずの「クレアトラベラー」など、このホテルを掲載した雑誌のホテルの解説記事にも名前が出ている有名な創業者・ホテリエで、1984年に死去されています。
ならば著者は幽霊と会話しているのかと思い、気になったので調べたところ、どうやら著者と会話した人物は、創業者カルロ氏の姪でオーナーをしているヴィルジニア女史の長男で創業者と同姓同名のカルロ・チンクエ氏でした。たしか彼はまだ当時はオーナーではなかったはずです。でも現在は資料によっては共同オーナーになっていますが、ややこしいので区別してほしかったです。
ホテルフリークなら大抵所持しているルレエシャトーの日本語版のオーナー欄を見ておけば、こんな間違いしなかったはず。
・インペリアルホテルのインペリアルトルテのクリームは、アーモンドクリームと説明しています。なお自分も以前このケーキを食べたことがあるのですが、あのトルテはマジパン(アーモンド粉を卵白や粉砂糖・シロップなどで練ったもの)入りだけど、アーモンドクリーム(これはマジパンよりクリーミーで柔らかくミルクも入っている)も入っていたかなぁ?と不思議に思い調べてみたところ、実際に使われているのはカカオクリーム(ミルクチョコレートのクリーム)とマジパンでした。これもこのホテルのお菓子通販部門HP(英語)で簡単に確認できます。でもこの2つは似ていて大間違いとは言えないし、細かいツッコミと言われればそれまでですが、自分はマジパン(マザパン)が苦手で、アーモンドクリームはOKという変な人間なもんで・・・。
・マドリードのリッツは1910年開業なのですが、著者はこのホテルの創業者がアルフォンソ8世(1155〜1214年)だとしつこく3度も名前を出して説明していますが、この王様はリッツ・マドリードが開業する700年前に死んでいるので、アレレ?また幽霊が出てきて、今度はホテルを開業しようとしているのか?と驚いてしまいました。
実はこのホテルの創業者はアルフォンソ8世でなく、アルフォンソ13世(1886〜1941)なのですが、ではなぜ著者がこんなおバカな間違いをしたのかと推測すると、おそらく英文資料に出ていたローマ数字VIII(8)とXIII(13)を取り違えたものと思われます。ホテルジャーナリストの村瀬千文にも言えることだけど、スペインの旅行ガイドブックを買ってちゃんと読めば、こんな素人の旅行ブログ以下の初歩的なミスなんて絶対しないはず。
・ALDENは独語・仏語・伊語・英語・日本語のどの言語でも意味の無い造語とオーナーに説明を受けたそうですが、英語ならアメリカの靴メーカーALDEN社の創業者の名字ALDENから分かるようにたしかに辞書には無いが、造語ではなく人名になるので、このオーナーの説明は省略すべきだったかも?
・ル・サン・シュルピスの説明で、アカデミー主演男優賞を2度受賞したのはスペンサー・トレーシー(1937年・1938年)とトム・ハンクス(1994年・1995年)だけと説明しているけど、これは2年連続受賞という説明なら間違いは無いのですが、2度受賞ならマーロン・ブランド(1954年・1972年は受賞したが拒否)、ゲイリー・クーパー(1941年・1952年)、ジャック・ニコルソン(1975年・1997年)、ダスティン・ホフマン(1979年・1988年)など合計9名もいます。
自称ホテルジャーナリストの松沢壱子氏のように、実はホテルは全く詳しくないけど映画ネタは詳しい人という人以外は、ホテル紀行の本で映画の話をすると高確率というか、ほぼ全員スベる(ミスをする)ので、最初から映画ネタは選ばないか、逆に調べまくるほうがよいです。
どうも著者は知性や教養を売りにしたいようですが、この本もデビュー作ほどではないですが、あまりにも間違いや勘違いが多いです。
だから博学強記な専門家に監修を頼まない限りボロが出やすいので、この路線を続けるのは難しいのでは?
でも最新作では、デビュー時のペンネームの飯野紅美氏の路線、つまりお得なレートを探し出して気楽に泊まり、背伸びをせず薀蓄を語らず楽しくホテルについて語る方向に戻ったようです。