おそらく、つい先日、小林多喜二の『蟹工船』がふたたび脚光を浴びたおかげで、わが国のいわゆるプロレタリア文学の草分けとでもいえそうな葉山嘉樹の作品まで文庫本で復刊されることになったんだろう。でも、せっかくの好機であることだし、『蟹工船』に感銘を受けた読者には、ぜひ一読をおすすめしておきたい。
表題作のほかに「淫売婦」「労働者の居ない船」「牢獄の半日」「浚渫船」「死屍を食う男」「濁流」「氷雨」という全部で8篇の短篇小説を収録。大正末から昭和の初期にかけて発表された作品だけど、改行が多くて大味かつ平明な文章で書かれていて、たちまち読み終えてしまう。どれも主題が強烈で明快である。
作中でリアルに描かれた当時の日本の貧困と、わたしたちの生きている現代社会の貧困とを比較して、いったいどこか共通していて、どこが異なっているかを考察することは、とても意義深いことではないかしら。
なんといっても葉山嘉樹が実際に放浪しながらさまざまな過酷な労働現場や獄中で身をもって体験した現実に基づいて執筆しているという迫力がすごい。巻末の解説と年譜がかなり充実していて参考になる。ある意味、本篇よりもそちらのほうが読みごたえがあったかもしれないくらいだ。
私は、作品の内容よりもむしろ作者自身の波瀾万丈の生涯のほうに強い興味をおぼえてしまった。うーん、女性関係なんか、もう相当にムチャクチャな人生だったみたいです。