上野千鶴子の輝かしいデビュー作が、岩波現代文庫になって帰ってきた。
この文庫シリーズ、過去の「定価じゃとても買えねーよ」という本が手頃な
価格になっているため、バンッ!!(肩を叩く音)「やるじゃねーか岩波!」とい
いたくなるところだ。
本書が扱うのは、女の「しぐさの文法」。広告媒体に映つりこむ女性表象の
中にあるしぐさの中には、見る側(つまり男)も意識上は気づかない文化的
コードが巧みにすり込まれている。動物の生態学的研究を援用しながら、そ
れらの文化的コードの解釈を試みている。
著者も「自著解題」にて触れているが、現在阪神タイガースOB会の会長を
務める田淵幸一が「田淵クン」と呼ばれていたり、さすがに約30年の月日
をへたということは隠せない。上野自身もこの間、一介の女子短大教師か
ら東大大学院教授にまで上り詰めた。しかしそれ以上に、この広告の記号
論的分析も、もはや80年代の遺物になってしまっているのではないか。
日本の80年代は、広告が一番アツかった時代である。その中で広告のジェ
ンダー論的な分析も、「し甲斐」がある。翻って今の広告はどうだろうか。当
時の分析しがいのあるお洒落な広告の類はなりを潜め、あるのは例えば車
雑誌の表紙の水着の女の子とか、「どうみても深読みしようがないだろ」とい
うものばかりだ。これを継ぐ優れた業績が出てこないと著者はいうが、それも
無理からぬ話だ。もちろん、ジェンダー論の取っつきやすい入門書としては、
未だ有効であることには変わりない。
それにしても、著者の自信は相変わらずすごい。別にあとがきにて謙遜しろと
いうわけではないけれど、これ以降の仕事は本書の「射程を超えた」と断言し、
それ以降の業績を今後の「上野千鶴子の仕事」のシリーズとして刊行される
であろうと、紹介するわけだ。著者を光文社に紹介したのは栗本慎一郎だそ
うで、いやはや栗本さんはものすごいモンスターを出版界に産み落としたの
だな。