こういう雰囲気、トーンの映画を、久しぶりに見た。
すべてにあたたかな視線を注いでしまう作品。
現代の小津映画。もう少しアングルが低かったら、もっとよかった。
セリフがいい。撮影がいい。音楽がいい。スタイリスト宮本さんの衣装がいい
(坂井真紀のワンピースと藤竜也のアロハ)。
舞台となった「家」がいい。室内空間の美術がいい。
タイトルからも分かる通りに、この映画には料理が出てくるし、
調理や食事シーンが何度も出てくる。
最近の日本映画で、食に焦点を当てた作品が多いのは、
足下がぐらぐらになってしまった、行方不明のような状態で、
生きる原点である食を作品の中心にしようとしている無意識の作用なのだろうか。
などと、こむずかしいことも頭の片隅に置きながら、
なんともここちよい時間にひたれる作品。坂井さんの代表作の誕生。
名台詞や名場面はいくつもありますが、はっとするほどいいなぁと思ったのは、
トニオさんと主人公が微妙な感じで親しくなってきた時。
シングルの男女が接近して、お互いの好意を確認できた後は、肉体的な接触に向かう。
そこで彼は言うのです。「握手しようか」と。そして手を差し出す。
「ちゃんと握手するのは、いいものです」。
いちばん心に残っているのは、
ラストでメリーゴーランドに乗って、彼の背中に寄りかかりながら、
主人公が「あー、気持ちいいなぁ」と言う、その前後の30秒くらい。
ここが自分的には、この映画のクライマックス。
映画では朽ちたメリーゴーランドが重要な存在になっていますが、
終盤、唐突に登場する観覧車シーン。まったく予測していなかっただけに、驚いた。
今まで見てきた中で、観覧者が出てくる映画に駄作は皆無。本作でも、観覧車の法則が証明されました(笑)。
もっといろいろ知りたくて、映画パンフを買った。
原作も読んだ。頁の中で、トニーさんと、コバちゃんにまた会えて、うれしかった。
原作の中では、観覧車もメリーゴーランドも出てこない。主人公の人物造形もかなりちがう。
この映画は、かなり大胆に、巧みに、独創的に、映像作品への翻訳をしていたことを知った。