動作がスローで高校で浮いている及川周子。彼女と「元ワルのライダー」である兄との関わりに巻き込まれていく主人公・千佐。
千佐は観察者だ。クラスメイトを観察し、少し複雑な家庭を観察し、折り合いをつけるべくコントロールして生きている。そんな自分をハンパ者と呼ぶ。泳いでいる時だけ、「身体をゼロにする。頭をパーにすることができる」。「毒素が抜ける」のだそうだ。
周子は違う。あくまでスローなペースを貫く。千佐は周子に関わるうち、彼女のスローな動作にはある理由があることを知らされる。まるで鈍感な変わり者のようでいて、透明な繊細さと激しさを隠しもっていた周子。彼女を知るにつれ、千佐は戸惑う。ただの鈍い女の子だったらいいのにと思う・・・
この物語は、他人の内面に踏み込む違和、表面的でない人間関係を結ぶ怖さといった、思春期に多くの人が経験するテーマを含んでいると思う。やがて周子は転校し、千佐の前から消える。けれど確実に千佐の心の中にいる。兄と周子の短いつきあい、周囲への抵抗、そのみじめにもがく姿を「綺麗な絵」として思い出す。二度と会えないかもしれないけれど、確かな痕跡を残す人。誰にでもそういう人が一人はいるのかも知れない。