日本のハードボイルド作家の巨匠と言えば、片岡義男その人である(私見だが)。ハードボイルド小説とは、常に荒々しさを強調して描くものだ。しかし、一級のハードボイルドと云えるのは、その荒々しさの奥に潜む穏やかさを描けているかどうかだと私は思う。片岡氏の小説にはそれがまざまざと描かれている。この小説は五つの短編からなる作品集である。若者たちの青春と倦怠がリズミカルに表現されている。どの作品も秀逸だが、中でも私は表題作にもなっている「スローなブギにしてくれ」がお気に入りだ。バイク好きの少年とネコ好きの少女の風変わりな生活を描いたもので、冒頭のバイクの疾走シーンを読み始めると、一気に作品の世界に惹きこまれる。少年と少女が交わす会話もまた楽しい。作品全体の底流に、優しさと穏やかな空気が流れている。この空気に束の間浸かってみるのも、一興だと思う。