「知られざる日本のグローバル企業」についてのビジネス・ノンフィクションである。「巻き線コイル技術を活かす幅広い事業分野」でグローバル展開する製造業、東証一部上場企業スミダコーポレーションとその二代目社長が主人公である。マスコミに頻繁に登場する有名企業ではないが、グローバル企業としての突出ぶりは注目に値する。
この会社は、日本の部品メーカーとしては、いちはやく1971年には国際事業展開を開始し、現在では中国、台湾、メキシコ、ベトナム、ドイツ、オーストリア、ルーマニア、スロベニアに生産拠点をもつにいたっている。売上高700億円超のうち、ドル建て、ユーロ建てがそれぞれ40%、円建ては残りの20%だけという、日本の製造業のなかでは例外的な存在であるといってよい。
現在では、純粋持株会社化し、そのしたにグローバル・オペレーションを配置している。また所有構造と経営を分離し、日本初の委員会設置会社となっている。こういった先進的な取り組みに挑戦し続けているスミダのコーポレート・ガバナンス改革については、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のケーススタディとしても取り上げられているという。
グローバル化については、その推進役である二代目社長が、本書に収録されたインタビューのなかできわめて重要なことをいっている。それはグローバルというコトバのあいまいさについてだ。社長は、グローバルよりもトランスナショナル(trans-national)という表現を使うが、これは直訳すれば国境を越えたという意味だ。たとえ英語を共通言語にして人事交流を活発にしたとしても、国ごとに固有の文化や価値観に違いが残るのは当然だし、また現実のビジネスにおいては通貨も違えば、国によって法律や規制が異なるので、これを乗り越えるためには多大な経営努力が必要になるということなのだ。
このような数々の難題を二代目社長の強力なリーダーシップのもとに推進してきたのだが、この間の失敗体験も含めた具体的な施策や苦労については、本書を直接読んで確認してもらうのがよい。
日本の製造業が現在のまま、今後も生き残っていけると考える人は、さすがに少ないだろう。座して死を待つわけにはいかない、海外進出しなければならないと考えている中堅中小企業も少なくないはずだ。方向性としてはスミダが切り開いている方向に向かうことになるだろう、しかし正直な感想としては、この会社をモデルにすることは、容易ではない思う。
親子二代にわたる経営者の強力なリーダーシップ、とくに二代目社長を中学卒業後に英国へ送り出し、英語と国際人教育を身につけ指した先代社長の先見の明と、それに十二分に応えた二代目社長の力量は、華僑では当たり前の行動様式ではあるが、日本企業にしては実に珍しい。
「グローバル、スピード、フォーカス」、この3つの要素を同時に成立させることのできる企業は、国籍が日本であるかないかにかかわらずグローバルに成功するのは間違いない。スミダはあくまでも「先進事例」であって、すぐそこに手に届く身近なモデルとは言い難い。グローバル化を推進する経営陣と、日本国内の従業員との軋轢など、もっと知りたかった面も多い。
とはいえ、この手の本にしては、非常によくまとまったビジネス・ノンフィクションになっている。経営者のインタビューを中心にしており、経営者のリーダーシップの重要性についてはよく書き込まれている。
こういう会社が日本にもあるのだということを知る意味では、読んで損のない本である。