この本は真面目にして肩の凝らないスペインのバルガイドブック。スペインのバルについてまとめた本ってそういえばこれまでなかったな。その意味で大変目のつけどころが良い。しかも、目のつけどころが良いだけに終わっていない。この本の面白さはつぶさな調査と分析力にある。
筆者はバル調査の地にグラナダを選ぶ。その理由。「一つは約30万人の人口を持つグラナダという街が、大都市特有の治安の悪さを有するほどには大きすぎず」なおかつ「その一方で都市独特の猥雑性が失われるほどに小さすぎず」しかもひとりの調査にはちょうど良い面積であると考えたからだそうである。全くその通り。しかも、最もわたしが膝頭を打った箇所は「都市の猥雑性」という表現である。あー、がぜん、突然、わたしも1ヶ月くらいグラナダに住んでみたくなった!
バルの立地の分類や、タパスの調査も面白いが、ハイライトはバルに集うおやじ達の行動調査。なんといってもバルの妙はハシゴの妙に尽きる、のではあるが、だからといってあろうことか、ある特定のバルを出た客が次にどこへ行くか、なんとひとりずつ追跡調査を行い、行動分布図を作成したのである。(よく野生動物の調査なんかで行われるように。)その根性には恐れ入ります。発想の面白さを確信していたからこそやり遂げることが可能だったのだろう。
前書きを読めば著者の川口さんは都市学やコミュニティ論を勉強していた人らしい。なるほどね!これまでスペインに長期滞在する日本人といえば、画家とかフラメンコダンサー、ギタリスト、またはテキヤさん(?)などある意味視点が似てそうな人種が多かったのだが(ちなみに私もスペイン在住経験者です)、コミュニティ論がバルと出会うとこんなに面白いことになるのである。
かく言うわたしも毎年マドリッドに行く目的は、バルで無駄な時間を過ごすため、と言っても過言ではないくらい。