表題作はそんなに面白くありません。わざわざソポクレスを焼き直す必然性が分からないというか。「母」という存在は恐ろしい、という萩尾さんの永遠のテーマが展開されているだけです。確かにそれは真実なんですけどね。特に息子はオンナ親に似る確率が高い上に娘よりオンナ親の執着を受けるので、そこらへんを追及するとホラーな事態がいろいろ可能だとは思うのですが、画面が軽くなっているのでビジュアル的にテーマの重さが支え切れていないような。
しかし後半の『世界の終りにたった一人で』は最後まで読者の興味を引っ張る良品でした。誰ひとりが「特別」だという訳でもなく、ネットワークのように茫漠と広がる人間関係の過去と現在が謎解きに値するミステリーだというテーマです。若い頃の熱気はありませんが、良い感じに枯淡の域を思わせる作品でした。
私は栄光のキャリアの後半の後半に入った萩尾さんがここまで画面を保っているのはスゴイことだと思います。画家でも加齢とともに目が弱くなりタッチの変更を迫られるとのことです。ピークをつけた時期(それも長く続いたピークでした)に成層圏に達した方ですからその頃の記憶がある読者さんには「昔と比べて…」なのでしょうが、ここまで底を割らない長いキャリアにはひたすら感嘆します。