日本を代表する物理学者の一人、朝永振一郎の幻の名著(1974年初版)が江沢洋により改訂されて、34年ぶりに刊行された。現在、みすず書房からは朝永振一郎著作集の他に、「量子力学I・II」、「角運動量とスピン『量子力学』補巻」が刊行されている。「スピンはめぐる」は最後の「『量子力学』補巻」のための副読本と見なすことができる。量子論と相対論の間に生まれた「恐るべき子供」スピンについて、著者独自の語り口で解説されている。今回の改訂は、単位系の変更、脚注・巻末付録の追加などを含んでいる。この結果、旧版の誤植などが取り除かれただけでなく、親切な脚注のために更に読みやすくなっている。量子力学の成熟期を同時代人として過ごした著者でなければ語りえない挿話のいくつかが光っている。特に、水素分子の電子遷移の回転構造の解析から陽子のスピンが1/2であることが結論されたことは、大変に興味深い。また、実際にスペクトルを測定した当事者が著者の義兄であったことは、新版の脚注から初めて知った。パウリとディラックの静かな闘い、ベクトルでもテンソルでもない量(スピノル)、発見の年(「奇跡」の1932年)など物理学史のエピソードも軽妙に語られている。最近、復刻された「物理の歴史」朝永振一郎編、高林武彦/中村誠太郎著、ちくま学芸文庫(2010)とあわせて読むと良いだろう。物理系学科の大学生(上級)か大学院生に推奨したい。