本著の内容には基本的に同意しますし良い本だと思います。ただ下でも指摘されてますが、批判対象について何点か、事実関係がおざなりなところがあって残念でした。
(1)147頁のあたりで「ヒトラーは超人思想の持ち主で、チベット密教はナチズムの元になったのです」云々として、チベット密教がナチスに影響を与えたと断言していますが、これはほとんど間違いです。その話自体70年代のオカルト作家が作り上げた珍説の一つで、現在、真っ当な学者はもちろん、オカルトファンでさえ、こんな古い話を信じている人はあまりいません。
(2)「グルジェフやヘレナ・ブラヴァッキーたちがチベットまで行ってきて」と書かれてますが、グルジェフがチベットには行ったのも後世の作家の創作か憶測で、歴史的事実はありません。またブラヴァッキーが訪れたのはインドで、チベットは訪れてません。むしろヒトラーがチベットに興味を持ったのは、ロシアとのビッグ・ゲームによる政治的理由で、探検家スヴェン・ヘディンと接触したことは知られています。
(3)逆スワスティカはヒトラー考案ではないことは多くの学者が既に検証しています(部下が上げたうちの一つを選んだにすぎない)。
(4)ヒトラーの超人思想云々に関しても、オカルト作家の影響が強く、実際はナチズム信者であったニーチェの妹が南米で勝手に行ったプロパガンダの影響が大きいだけで、ヒトラー自身が超人思想を持っていたかどうかは、それこそオカルト話的には面白いですが、史実的には怪しいところです。
(5)ついでに中沢新一批判も、島田裕巳の著書内容ほとんどそのままなのもちょっとどうかと思います。
脳機能学者が科学でオカルトを断罪する姿勢には好感を覚えますが、もしこれが単にオカルト嫌いの人たちから喝采を浴びるための本ではなく、内側にいる人を啓蒙する目的で書かれた本なのだとしたら、こうした乱暴なディティールの扱いが残念でならないです(少し調べれば分かることです)。UFOも宗教もオタクもそうですが、例え本論の主張は正しくとも、事実関係としてのディティールを軽視する外側の人の言葉は、結局、内側の人間にも軽視され、まるで届かないからです。 レビューを読むと苫米地博士の著書ということで絶対の信頼を抱いている人が多いですが、そのブランド名に安寧して全て鵜呑みにするのは博士がスピリチュアリズムを批判する理屈と同じ意味で危険だと思います。ph.Dという肩書きは何も博物学者を意味しないことは、読者も注意しなければならないでしょう。