冒険小説の大御所クィネルの三作目は、スパイ小説仕立てのノンフィクション・ノベル
である。イスラエル空軍機がイラクのタムーズにあった原子力施設を「バビロン作戦」の
名で空爆したのは1981年6月であった。アメリカを含めた国際社会からの激しい批難を
浴びた事件だったが、イスラエルからある信書を受け取った米国は一転して態度を変え、
攻撃の正当性を認めた。本作はその"秘話"をクィネル流の味つけで物語にしたものである。
実話に基づいているから、フランスで保管中のイラク向け原子炉格納容器が爆破されたり、
イラクの核開発責任者が殺害されるといった、本作にあるモサドの妨害工作も史実である。
クィネルと云えばクリーシィシリーズだが、本作に登場するモサドのスパイで戦争写真家
マンガーは、クリーシィのライフルと異なり、カメラでの"スナイプ"に一瞬の命を賭ける。
不思議なスパイのウォルターや、ダフとルースのペイジェット夫妻、可哀相なギデオン・
ガリーリなど個性的な人々が様々な物語を紡ぎ、一編の壮大な叙事詩を織り成していく。