『市民ケーン』、『偉大なるアンバーソン家の人々』の恐るべき神童、
オーソン・ウェルズによる、ナチ残党狩りを扱ったスリラー。日本で
は未公開ながら、『ナチス逃亡』の邦題で何度もTV放映されている。
いわゆる「B級の」予算と規模の作品だが、ケレン味たっぷりの悪役の
存在(ウェルズ自身が気持ちよさそうに演じている)、クレーン・ショ
ットによる長廻し…など、ウェルズらしい意匠による映画的魅力が随
所から滲み出している。とりわけ圧巻なのは、ウェルズ扮するナチが、
森の中で元部下を殺害するシークエンスを延々と移動撮影で捉えた長
廻しで、その異常な緊迫感と恐怖には戦慄せずにはいられない。
ウェルズ作品の怪物的悪役が(出演作のみ含む)、良識ある主人公より
魅力的になってしまうのは往々にしてあることだが(『恐怖への旅』、
『黒い罠』、『第三の男』など)、この作品でも、時として、追う側の
E・G・ロビンソン以上に光っていることがある。しかし、ロビンソン
の常にパイプを手放さない沈思黙考型のキャラも十分魅力的であるこ
とは間違いない(事実、主役は彼のほうだ!)。
尚、この作品は、ナチ収容所での残虐行為の実写フィルムを初めて
登場させた作品ということでも記憶される。