スーパーストリング理論は、すべての素粒子の種類および性質を決定し、重力を含むすべての相互作用を記述し、時空がなぜ4次元なのかをも説明する理論であるとされている。要するに「すべてを説明する理論」というのが謳い文句である。数千人の研究者がこの理論を研究し、数万の論文を書いてきたし、今もなおストリング理論は学生たちを魅了し続けている。だが、ストリング理論は何かを説明したか?その目標が達成される見込みはあるか?
ピーター・ウォイトは1975年にハーバード大学に入学し、グラショウの指導を受け、プリンストンの大学院でグロス教授や、学生であったウィルチェクや、教授になりたてのウィッテンとともにいた。つまり素粒子の標準模型の成立期からストリング理論の勃興期にかけて研究の現場に立ち会った人物である。この本は、現代物理学の基礎原理が対称性にあり、対称性を記述するための数学を整えた人がワイルであることから話を起こし、ゲージ理論の成功、標準模型の確立に至る歴史を分かりやすく解説し、ストリング理論の歴史を詳細かつ正確に記述している。
原題は "Not Even Wrong", 間違ってすらいない、という意味である。この言葉は元々パウリが使った言葉らしい。科学理論は正しいか間違っているかテストできるものでなければならない、反証可能か否かということが科学と非科学を区別する基準である、と唱えたのはポパーである。スーパーストリング理論は実験で検証できるような予測を何もしない(予測をするための定義・計算規則が備わっていない、いつも言い訳ばかりしている)のであれば、これを科学と呼ぶのはいかがなものか。
この本はストリング理論の信奉者に突きつけられた挑戦状ないし公開質問状と見てよいだろう。読み応えは十分にある。翻訳に関して一つコメントを付けるとp.97の人名「オレイフェアタイフ」は「オラファティ」とした方が原音に近い。