この本は,スティーブ・ジョブズの生涯について書かれた最も詳しい本である。私は,これまでもスティーブ・ジョブズに関する本を多く読んできた。しかし,これまで読んだどの本とも違っている。この本は彼のサクセス・ストーリーというよりは,ジョブズという人間が,本当はいったいどのような人間だったのかということを,本人だけでなく,家族や恋人,一緒に仕事をした人々の話を元にして,できるだけ現実に近い話として,まとめられている。いや,限りなく現実に近い話と判断しても良いくらいだ。それくらい,ジョブズに関しての,良い面,悪い面を包み隠さず書き記した本なのである。
私がこの本を読んで,印象に残った言葉は,次の通りである。
・「僕は子どものころ,自分は文系だと思っていたのに,エレクトロニクスが好きになってしまった。その後,『文系と理系の交差点に立てる人にこそ大きな価値がある』と,僕のヒーローのひとり,ポラロイド社のエドウィン・ランドが語った話を読んで,そういう人間になろうと思ったんだ」(ジョブズ)
・インテグレーテッド・エレクトロニクス・コーポレーション(インテルの略)
・「マイクには本当に世話になった。彼の価値観は僕とよく似ていたよ。その彼が強調していたのは,金儲けを目的に会社を興してはならないという点だ。真に目標とすべきは,自分が信じるなにかを生み出すこと,長続きする会社を作ることだというんだ」(ジョブズ)
・「未来を予測する最良の方法は,自分で作り上げることだ」(アラン・ケイ)
・「ジョブズは自分をアーティストだと考えており,設計チームのメンバーにもそう考えるようにしむけました。目標は競争に打ち勝つことでもなければお金を儲けることでもありません。可能なかぎりすごい製品を作ること,いや,限界を超えてすごい製品を作ることでした」(ハーツフェルド)
・BASICというのは,Beginner's All-purpose Instruction Codeの頭字語で,技術にあまり詳しくない人でも異なるプラットフォームへの移植が簡単なソフトウェアが作れるプログラミング言語である。
・「このとき,常に自立したいと思うようになりました。この考え方に私は誇りを持っています。お金は自立の道具であり,私という人間を構成するものではないのです」(ローリーン・パウエル)
以上である。また,特に印象深かったのは,ピクサーのジョン・ラセターがディズニーに引き抜かれようとしたときに,「ジョブズには恩がある」とそれを断り,そのためにディズニーは,ピクサーと契約することになったという経緯である。やはりどのような世界でも,魅力的な人間のもとに人は集まり,そしてその人の期待に応えるために人は生きているのだなと痛感した。
スティーブ・ジョブズが魅力的な人間であるからこそ,彼の人生を言語化した本書が面白いと感じられる。スティーブ・ジョブズは,経営者としてだけでなく,一人の人間としても学ぶことが多いと,この本を読んで強く感じた。