サスペンス、SF、人間ドラマ、ミュージカルと多岐にわたるジャンルの映画を連発し、常に高いクオリティを示したロバート・ワイズ監督によるセミ・ミュージカル。純然たるミュージカルと呼べないのは、ステージにおけるパフォーマンスのときのみナンバーが挿入されているからです。そういった意味では人間ドラマとミュージカルの融合とも呼べる作品。
『ウェストサイド物語』、『サウンド・オブ・ミュージック』などの傑作ミュージカルで育んだシャープで明確なワイズ節はここでも健在。小気味よい巧みな編集、計算しつくされたカメラムーブメントに裏打ちされた見せ方の工夫、空間と音楽の適材適所での使い方、さりげないヒューマニズムの盛り込み方などが楽しめます。
1940年代に活躍した伝説の舞台女優ガートルード・ローレンスの半生をミュージカルの達人ジュリー・アンドリュースが好演。一部のファンや批評家のあいだでは、アンドリュースが自由奔放で派手好きのローレンス女史のキャラクターになりきれていないとの批評があったようですが、個人的にはアンドリュースはきっちりと仕事をこなしていて好感を持っています。ナンバーよし、ダンスよし、懸命な演技よし。主人公を実際のガートルード・ローレンスに見立てるのではなく、あくまでもジュリー・アンドリュースが創造したキャラクターとしてみたほうが正解です。また公開当初、3時間にもおよぶ放映時間が非難をあびたいわくつきの作品。しかし、主人公の人間的な成長をじっくりととらえるためには長尺もやむを得ないというところ。伝記としての重厚さをもこの作品は持ち合わせています。
しかし、全体として重苦しくならないのはアンドリュース演じる主人公が明朗快活で好感が持て、ワイズの演出があくまでも明るく楽しい雰囲気づくりを心がけたからだといえます。ローレンス女史が落ち込んでいるときもわがままになっているときも絶えず彼女を温かく見守る旧友ノエル・カワードを演じたダニエル・マッセイが飄々たる好演。彼の存在がフィルム全体になんともいえない安心感を与えています。
ステージ展開のパワフルさと素晴らしさといったら!長尺になってしまったのも、多くのナンバーを楽しんでもらおうというワイズ監督のサービス精神の賜物だったのでは。しかしそれだけではなく、各ナンバーとステージパフォーマンスは微妙にその時々の主人公の心理状態が反映していて、そういった点でも見逃すことができないのです。
公開からしばらく経った1984年、多くのファンに望まれながらディレクターズ・カットとして再公開され好評を博したという逸話を持つ作品。『サウンド・オブ・ミュージック』ほど万人に愛されてはいないかも知れませんが、それでも独自の力強さを持つ力作であることは論を待ちません。