数々のジャズギター教則本で有名な布川氏だが、意外にもスタンダード集を出すのは今回が初めて。彼らしく多彩でエスプリの利いたアレンジが冴えるアルバムである。軽快なM1、枯葉を大胆にアレンジしたM4、元はボサノヴァだがバンドが一体となって白熱の演奏を見せるM5、スティービー・ワンダーの名曲がランドスケープのアコギで美しく奏でられるM6など、氏のギタリストとしての懐の深さが存分に発揮されている。
メインで使用されているYamaoka製フルアコギターの音色が殊のほか素晴らしく、特にM3の中間部のソロなどではギターでここまで唄えるのかと思うほどに朗々と旋律を弾ききっている。マイルスとウェスの名演が有名なM7はカート・ローゼンウィンケル同様ルンバ調のアレンジを盛り込んでおり、倍テンでソロが始まるところでは思わず身を乗り出して聴き入ってしまう。そして無伴奏の終曲M11は、ギターを弾く者にとっては戦慄を覚えかねないほど驚異的で繊細なダイナミクス。感動的である。
リズム隊も素晴らしい。M1のベースソロは只者ではないドライブ感であるし、ドラムはM6をはじめとしてこだわりを見せつつも根底からしっかり支えている。欠点を強いてあげればピアノが若干弱いことか。若さ溢れる思い切りの良さを随所で見せているが、まだまだ今後の伸びしろに期待したい。さらに録音のせいなのか、ピアノの音がやけに硬くエレピのような音になってしまっているのは残念。しかしそれもこの素晴らしいアルバムの価値をいささかも貶めてはいない。日本を代表するジャズ・ギタリストの新たな代表作と言える傑作盤。