1875年、イタリア南部東岸のプーリア州。灼熱の太陽が照りつける鄙びた村モンテプッチョ。干してあるトマトは熱せられ、虫のように縮こまり、胸を悪くするような酸っぱい香りを放つ。そこへ一人ロバにまたがってやってくる男。「ここが世の果てだ。この時を15年間待った」と男は言う。この燃えるような太陽の日から、ひとつの家系が生まれた。
太陽の熱が大地を切り裂くかのようだった。この一文からスコルタの始祖が神話的に誕生し、モンテプッチョを舞台に一族の五世代に渡る系図が綴られていきます。著者の発する短文の速連射のような文体が、死をも恐れぬ特異な哲学を実践する始祖と二代目の圧倒的な存在感を見事に援護します。悪事で富を得た二代目が遺言代わりに教会と交わした契約はスコルタの異質さを浮き彫りにし、各幕間にはスコルタの老婆が神父に告解をするシーンがカットインし、前半は一種異様な作品雰囲気が魅力的です。
しかし三世代目の一人が、オリーブ油を土地の血とみたてて、甥っ子に労働の貴さと幸せを語りだすようになる頃から風足が変わっていきます。幾分教訓めいた感じがしてくるとともに、波風が減衰し物語が少しずつ失速していく感じは否めません。しかし文体は変わらずにキレキレで、血族の絆を前面にした多少脂っこい家族愛の話でも重たい感じはさせません。冒頭の強烈な出足を思えば後半は肩透かしを受けるような感はありますが、特異で逸脱した個性でも五世代もすれば人々と背景に霧散していくという大きな動きを描くのも物語の本質なのかもしれません。世代とともに血は薄まっていくものだからこそ、語りで繋げないといけない部分があるということなのでしょうか。そんなことを考えさせるところに著者の語り部としての優れた才能を感じました。訳者あとがきを読むと本書の文体の魅力を原文のフランス語で感じることができる人をうらやましくも思います。(本書は04年ゴンクール賞受賞作です)