内容は、「岩波講座 世界歴史3:中華の世界と東方世界』の中に掲載してある「草原遊牧文明論」と、朝倉書店「講座 文明と環境6 歴史と気候」に掲載された「フン族あらわる」に発表された内容が、一部ほぼそのまま流用されています。流用はいいのですが、前掲書の記載の方が、ページ数は短いけれども、簡潔で、切れ味があり、文章として引き締まっていた感じです。特に「フン族あらわる」は、これまで何度も読み返しており、アンミアヌス・マルケリヌスに登場する、アラン族を攻撃した謎の民族の登場にまつわる書き出しから、、最新考古学状況を踏まえたラストの仮説に至る論述は、スリリングであり、締めの文章は鮮やかな印象をもたらし、読ませるものがありました。本書は、多少専門的な両書よりも、一般読者向けの、より親切な文章を目指した為、多少冗長な印象を与えることになってしまったのかもしれません。機会があれば、両書の林氏論述も、一読されることをお勧めします。
それにしても、近年の考古学の成果は、スキタイの起源を東へ追いやり、あたかも匈奴の先行者のごとく、東から西へ大規模に移動した最初の遊牧民なのではないか、との仮設を立てることができる段階まで来ていることに驚きました。また、スキタイの文字史料としてヘロドトス以外に、アッシリア史料などにも言及されていて、新たな知見が多く記載されています。著者も記載していますが、年々新たな考古学成果が生まれており、今後も研究に期待できそうです。10年後、最新の研究成果で改定された本書を読んでみたい、そんな気にさせられました。