安心して暮らせる高福祉国家スウェーデン。その国が、実は大規模な企業倒産や解雇を容認するような、激しい競争社会だと知ったら意外に思うと思います。「福祉=優しい」という単純な発想、またその延長線上にある「福祉vs競争」ではこの国の社会は見えてきません。高福祉を実現させるために、経済の高成長が必要であり、そのためには高競争力が求められる。福祉と競争の対立を乗り越えたところに、スウェーデン・パラドックスがあります。
スウェーデン経済の特徴は(1)高競争力を促進する仕組みと、(2)その高競争力を維持するための福祉・平等的な環境整備が明確に制度設計されていることです。
まず、(1)として、特に産業構造を円滑に転換することが重視されており、衰退産業を国庫で救済しないこと、余剰労働力を円滑に他の産業に移行させる労働市場・賃金体系が整備されていること、ないし教育のサポートが手厚いこと、国による教育投資が大きいこと、産官学の連携による研究開発が盛んなことが挙げられています。また、ITインフラの整備では世界トップ水準であり、労賃・法人税ともにヨーロッパの平均よりも低い水準に抑えられているため(意外!)、企業の海外移転を抑制し、むしろ最先端企業の誘致に成功しています。
しかし、競争を促進しても社会が崩壊してしまっては意味がありませんし、競争力も持続しません。(2)福祉・平等的な施策は高競争力の維持のためにも機能します。労働力率、そして徴税率を高め、扶助負担を減らす女性の就労を保障する社会政策、安心して再教育を受け、労働市場に戻れる積極的労働市場政策、福祉(扶助)依存を抑え、自立へと促すインセンティブを内包した社会保障体系など、公平な競争を維持するための政策群が充実しています。
ただし、競争の補完をするためだけに福祉があるだけではなく、福祉を実現するために競争が促進される。競争と福祉が相互に補完しており、相乗効果を発揮しているといえます。特に80年代の新自由主義政策の席巻以降、「福祉と競争力の強化は逆行する」という教義が一般化する中で、本書が描き出したような「福祉と競争は両立する」というテーゼはまさにパラドックスです。むしろ、両立してこそ効果が発揮されるのです。併せて、スウェーデンの経済、教育、福祉、行政、税制など、具体的な現状紹介も詳細で、イメージばかりが先行してなかなか実態がわかりにくいスウェーデンの社会・経済を知るには絶好の一冊です。日本社会の今後を展望しながら書かれているために、示唆に溢れています。ぜひ、多くの人に読んでもらいたい1冊です。