『ジーンズの少年十字軍』テア・ベックマン 岩波少年文庫全二巻
私が「少年十字軍」のことを知ったのは、中央公論社発行の『世界の歴史』(旧版)でした。
フランスで、ある少年が、「聖地を取り戻せとの神の啓示を受けた」と語り始め、それに影響された少年、少女たちが行進をはじめ、最終的には数千人の規模となり、マルセイユに至りますが、彼らを乗せて出港した船は数隻は難破し、残った船は一路アレクサンドリアに向かい、子どもたちは奴隷に叩き売られ、生きて故郷に帰ることができたのはほんの数えるほどしかいなかったという悲劇的な事件でした。
ドイツでも、ニコラスという少年が同じような事を言い始め、それに影響を受けた少年、少女たちが歩き始めます。彼らはアルプスを越えてイタリアを目指しローマに至りますが、そこで教皇に説得されて故郷に帰ったといいます。やはりこの場合も故郷に無事に帰ることができた子どもたちは少数であったといいます。
以上が史実です。
オランダのアムステルハ−フェンに住む15歳の少年、ドルフ・ヴェーハ君は冒険好きの少年です。お父さんの友人の科学者が物質を過去に送り込むことができる装置を発明した事を知った彼は、中世フランスで行われていた槍試合を是非とも見たいと、科学者を説得、無事に帰ってくることができる方法もしっかりと身に付けて過去へと旅立ちます。
ところが、早速事件に巻き込まれてしまい現代へ帰れなくなってしまった彼は、たまたま近くを通りかかったニコラスと二人の修道士が率いる少年十字軍に遭遇し、行動を共にする事となります。
ドルフ君は、ルドルフ・ヴェーハ・ファン・アムステルフェーンと名乗ります。行を共にし始めたドルフ君は、子どもたちのあまりのみじめさに心を痛めます。食糧不足、病気やけが、そして人攫いが頻発し、多くの子どもたちが命を落としていきます。ニコラスと二人の修道士たちは、「すべて神の御心」として対策を講じようとはしませんが、ドルフ君は、ほうっておけません。多くの子どもたちをグループに分けて、それぞれ「防衛」「看護」「食糧獲得」などを担当させます。子どもたちの中に徐々に責任感と他者への思いやり、そして何よりも自分の能力への自信が育って行きます。
つまりこの小説は、現代人が過去へ旅をするという「タイムトラベル」物であるのと同時に、現代人が過去の一事件に干渉するという筋立てになっているのです。
ドルフ君は現代人ですから、当然、民主的な考えを持ち、差別は悪い事という気持を持っています。その考え方は中世の人たちにどのように受け取られたのか。ここも一つの見所です。
そして現代人として様々な知識を持っているドルフ君ですが、その知識は中世では役に立ったのか?
一行はアルプスを越えてイタリアに入り、ジェノヴァに到着します。そこでドルフ君は重大な秘密を知ることとなります。さて、その秘密とはなんなのか?ドルフ君は無事に現代に帰れるのか?ジェノヴァまでやってきた子どもたちはどうなったのか?
まことに興味津々の物語です。さすが、岩波少年文庫、いい作品を出版してくれます。