優生学(優秀な遺伝子の子孫は優秀である)に取り付かれたアメリカの大富豪が実際に設立した
天才精子バンクと、そこから生まれた子供達のその後を追ったドキュメンタリーです。
優生学というとまずヒットラーを思い出しますが、この本を読んでそもそもヒットラーにああした
発想を与えたのが当時アメリカの学会で流行していた優生学だという事にまず驚きました。
(アメリカ人はきっかけを自分達で作っておきながら、それを棚にあげて後で相手を攻撃するという
悪い癖が昔から直っていないようです)。
主人公の大富豪グラハムも、ヒットラーと同じように当時の流行にのめり込み、やがて精子バンクを
実現してしまうわけですが、活動に賛同したノーベル賞科学者ショックリーの迷走とともに世論の
反発を受け、最後にその施設は閉鎖されてしまいます。
こうした設立から閉鎖までの過程もまるでSFのようで面白いのですが、やはり考えせられたのは
この精子バンクを利用して生まれた子供達の行く末です。
結論から言えば、天才は生まれていないようです。学業優秀といった子はいるようですが
それは遺伝子の力というよりは親の子育てへの情熱とか、環境(良い友人や先生)、そして本人の
努力という、ある意味当たり前の理由であって、結局天才精子バンクの成果については明らかに
なっていません。
ですがそれは別としても、多くの子供達がまだ見ぬ、そして決して会うことのできない父親への
複雑で微妙な感情を表してるところに少々居たたまれない物を感じました。
天才に取り付かれた大富豪、それに賭けた母親、そして父無き子供達。呆れた所業と笑ってしまう事は
簡単ですが、何か人間の深い業のようなものを感じずにはいられません。
クローンや遺伝子操作も現実の物となってきた現在に、この本が与える教訓は少なくないように思います。