ジーキルとハイドという人物の関係についての謎を書いたミステリーであり、殺人や薬による変容の恐怖を描いたホラー。解説は東雅夫氏。
予想外に短い。だが、一番予想外だったのはハイド氏が小柄で、外見もまったくジーキル氏と違う、というところである。舞台や映画では一人二役で演ずるイメージがある。ジーキルとハイドが「一人の人物」であることを強調する演出としてはそれが最適だったのだろう。そしてそのイメージが定着したのだ。しかし、考えてみれば一人二役で外見に共通性が残っているよりも、外見も変わってしまう方が「根源的な改変」の怖さが強い気がする。小柄なハイド氏が背の高いジーキル博士の服の袖や裾を捲り上げてきている姿は滑稽でもあるが。
短いが、細かな描写がとても丁寧である。明るい表玄関と、窓もない裏口側という建物は、解剖医ジョン・ハンターの家がモデルなのだそうだが、確かに実在した家屋の構造を知らないと描けないようなところもたくみに利用されている。ジーキルとハイドの行動が無理なく説明できるのである。
後半の、謎解きとなるジーキル博士の手紙の部分がかなり長いが、ここの描写も丁寧で、前半の不可解な人物の与える怖さとはまた違う怖さである。薬で自分の「快楽を追求する」部分を分離して楽しむうち、薬の量を増やさないと聞かなくなる、無意識に人格が変わっていることがおき始める。どこやら「麻薬」の症状を描いているような怖さでもある。著者は薬もかなりよく知っていたのだろう。
上質な恐怖推理小説として、やはり一読の価値はあると思った。もっとも「謎解き」の部分については、ジキルとハイドの関係はあまりにも知られてしまったので、出版当時の読者のように楽しむというわけには行かないのが残念かもしれないが。
ちなみに、翻訳者の解説によると最近は「ジキル」ではなく、日本語では「ジーキル」と表記されることが一般的だそうである。