2010年アカデミー賞作品賞を射止めた「
英国王のスピーチ コレクターズ・エディション [Blu-ray]」で、主人公ジョージ六世の謹厳実直な父として登場するジョージ五世の伝記。映画の中で、当時、王太子だったエドワードの放縦ぶりに悩む姿を見て関心を持ち、本書を手に取った。
ジョージ五世王の時代、彼はもちろん、ヴィクトリア女王の孫たちが各国の君主に就いており、ヨーロッパの王室はあたかも一つの閨閥のようだった。そんな時代にあって、親戚づきあいは即ち王室外交、ひいては国際関係とも言えた。著者に言わせると、ヴィクトリアに「怠け者バーディ」と、政務から遠ざけられ、パリの社交界で遊びほうけていたエドワード七世(ジョージ五世の父)は即位後、その社交的な性格が幸いし、自身の活躍で英露協商、英仏協商を次々と成立させる。大戦前は、この王室外交を中心に話は展開する。ただ後継のジョージ五世はまじめだが、人付き合いも外国語も苦手だった。著者は、「オーストリア皇太子暗殺時、王座がバーディであれば、各国の親戚を説得に回って事態を収拾したのではないか?」ともいう。
ともあれ、世界大戦は起きた。大戦中、そりが合わない宰相・ロイド・ジョージとの関係に怒りながらも精勤した。5万人に勲章を授与し、連隊450個を視察する。いとこのニコライ二世もヴィルヘルム二世も皇位から去った大戦後は、世界に広がる大英帝国の維持、英国政治で調整力と指導力を発揮する。巻末では日本皇室との関係も紹介され、明治時代に海軍士官として来航したジョージ五世が、彫り師に入れ墨を入れてもらった、という興味深いエピソードもある。
内容は手堅く重厚。しかし、エピソードや写真も多く盛り込まれており飽きさせずに読ませてくれる。何より系図が冒頭に置かれているのはいい。私も多少、ヨーロッパ王家の閨閥を知っていたつもりだが、アリックスやらバーディが複数出てくるので、系図を見ながらじゃないと混乱する。なにせ、ニコライ二世は母方のいとこ、その妻は父方のいとこなのだからややこしい。ともあれ、新書としては非常に読み応えのある内容。英国王室史というと、ヴィクトリアとエリザベス二世という両女王の輝きが余りにまぶしく、男性の影が薄い。しかし、両女王の間に挟み込まれた波乱かつ華やかな半世紀を名君が乗り切っていたことが分かる。