大抵の方と同じく、当初、この作品には全く食指が動きませんでした。だって、そうでしょう?これで、何作目ですか、彼のドキュメンタリー?また不幸な生い立ちから始まって、悲劇的な死で終わって。で、「愛と平和」の大絶賛。誰の意図かは知りませんが(何となくは、予想もつきますが)、今や、そこらの中学生でも、ジョン・レノンと言われれば「イマジン」と答える時代。そんな「偉人伝」の中の彼には、私は全くリアリティを感じられません、少なくとも、そこに私が大好きな、ジョン・レノンはいない。
で、今回の作品、また、よりによって、そんな平和運動に積極的に関わっていた時期を主眼に置いたものだと言うので、これはスルーでいいかな、と思っていたのですが...。
すみません。完全に舐めてました。ひょっとすると、この作品、今まで作られた彼に関するドキュメンタリーの中でも、一番実像に近いのでは、と思わせるほど優れたものでした。
勝因は、ニューヨーク時代に焦点を絞ったおかげでしょう。
彼の政治姿勢は常々「ナイーブ」だと一部から批判されてきましたが、それもそのはずで、彼の求めた「平和」とは、誰に追いかけ回される事なく、気軽に行きたいところにいき、買いたいものを買い...というごくごく「個人的なプライバシー」を保証する環境を死守する、ということだったのが、この作品を見るとよくわかります。ですから、おそらく、例えば「戦争をやめる」などという、平和活動の先頭に立たされるのは本意ではなかったのではないのか、とも。でも、「元ビートルズ」という圧倒的な名声がそれを許さなかった、しかも、FBIからは盗聴され、尾行もされ、という。どれだけ、彼が追いつめられ逃げ場がなかったかと言う、彼「個人」の苦悩が痛いほど伝わってきます。
結果的にアメリカ永住を認められたわけですが、彼は、決して、そうした「運動」の矢面に立ちたかったわけでも、ましてや「英雄」になりたかったわけでもなかった。ただ、個人として「自由に」生きたかっただけだったのだ、というのが、関係者へのつぶさな証言で浮き彫りにされます。
というわけで、わたしと同様な理由で購入をためらっている方々。レアフッテージがどうのとか、そう言う問題はさておき、なにより、ここには、「愛と平和」なんて言う陳腐な言い回しで語り尽くされた感のある「偉人」ではなく、私が(私たちが)大好きな、皮肉屋で、真正直で、人を虜にせずにはおれない、あのユーモアに満ちた愛すべきジョンがいます!そういう彼に「会い」たければ、是非、購入をお勧めします。
しかし、このような優れた作品登場までに、死後30年あまりもかかってしまったのですね...。