世紀末に生まれ、大恐慌とともにキャリアを終えた、アール・デコを代表するグラフィック・アーティストの傑作の数々。
ジャンルは、雑誌のイラストやファッション画だけでなく、文学作品の挿絵、バレエ・リュスを含む舞台芸術のイラストなど多岐にわたり、オリエンタル趣味も随所に登場します。
宣伝文句の「花咲く乙女たちの夢幻の空間」というのは、ちょっと違います。また、表紙もおそらくバルビエの画からのコラージュにすぎず、少女の世界を連想させて誤解を招くと思います。
時に華やかに、時にエロティックに、時に踊るように、時にしどけなく、様々な姿で登場するのは、もっと大人びた、当時の理想的なモダンガールや18世紀の装いを身にまとった女性達です。
しなやかだけど大胆で、とんがっているけど可愛らしい、大人の女性像の一つの極みです。
ファッショナブルで鮮烈なアール・デコの寵児・エルテは、幾何学的な構成で画面の中央に刺激的なエッセンスを集中させて、見る者を幻惑する印象があります。
それに対して、バルビエの画は、ディテールや雰囲気のすべてを含めた、画面全体を使って表現するアートだと思います。物体の輪郭線や人物の視線がもつ、たくさんのベクトルが画の中で優雅に交錯します。
全体感と、その構成の緊密さや繊細さは、似た作風の画家の中でも抜きん出た特徴のように私は感じます。しかも、構成は画ごとに自在に変化して、無限のパターンを持つかのようです。
この本は、バルビエの“てんこもり”だと思います。
ページレイアウトは凝っていて、1ページ目から最終ページの隅々まで、ロココ&アール・デコな雰囲気を漂わせ、単なる空白がありません。といって、装飾過剰な感じがしないのは、バルビエの画がそれを求めているからかもしれません。
残念なのはテキストで、子細に見ればそれなりの情報量はあるものの、バルビエの生涯及びアートについて、少なくとも私にはピンときませんでした。鹿島茂(著)の「ジョルジュ・バルビエ画集:永遠のエレガンスを求めて」の、“エレガンス”と洒脱な“エロティズム”を主張する偏愛に満ちたテキストの方が、“バルビエの世界”への扉を開いてくれる気がします。
しかし鹿島本は、大きな図版は少なめで、巻末の図版は数が多いものの小さく、図録としては不満が残ります。
それに比べて本書は、1ページ大の図版が多めで、小さい図版も随所にちりばめて図録としての情報量を高めた密度の濃い本です。2〜3度は眺めるたびに新たな発見がありました。
「約270点を収録した豪華作品集」という宣伝文句に偽りはありません。とはいえ、もっと見たいと感じるのも事実で、収録数から見てバルビエ画集の決定版とまでは言えないかもしれません。
紙の質は良く、おそらく色の繊細な再現性は高いものと思われ、原画の紙質や経年劣化までも映しているようですが、画質にややシャープさを欠く画があるのは残念。
重すぎず、手にとって眺めるにはちょうど良いサイズの本だと思います。本書でも触れられているバルバラ・マルトレリの「George Barbier: The Birth of Art Deco」(ISBN-10: 8831796461)はすでに絶版のようで、貴重な本書は、なにはともあれ嬉しいです。
(※)なお、アマゾンの「言語 英語, 英語, 英語 」というのは誤りで、すべて日本語で書かれており、ところどころに英訳が付いているだけです。