美術好き、絵画好きですが、ラ・トゥールという名前を聞いても全く知りませんでした。表紙に素晴らしい絵が書いてあったので手に取り、読み進める内にその作品、業績、生涯を知ることになりました。
読書の楽しみというのは未知なるものとの遭遇です。新しい発見をするたびに読書の喜びを感じます。本書もその意味において嬉しい出会いでした。
興味をひかれた表紙の絵とは、彼の「聖ヨセフの夢」というものでした。薄暗い蝋燭の炎に映し出された少女とヨセフしか描かれていません。炎は少女の腕で隠され、そこからの光が美しい少女の横顔を照らし出しています。一方の居眠りをしているヨセフは、ほとんど逆光の薄明かりに顔の輪郭が浮かび上がっています。
光と影の扱いから、最初はレンブラントの作品かと思いましたが、少女の表情の優しさから別の画家の手によるものだと思いました。
美術史家にとって当たり前のことでも、一般人は本を読むことで少しずつ知識を広げていきます。光、特に闇に浮かぶ松明や蝋燭の光の取り入れ方は抜群ですね。主題をくっきりと浮かび上がらせる手法は、宗教画においては有効ですし、世俗的な絵画でも心理描写に優れたものを残します。
本書は、そんなラ・トゥールの数少ない作品を丹念においながら、真筆とコピーの両方を提示しながら、それぞれの作品の比較を試みてその違いを明らかにしてくれました。
17世紀前半のフランスというバロック絵画の花開いた時、ルイ13世の寵愛を受けた画家が忘れ去られ、20世紀においてまた再発見されていく過程も読み応えのあるところでした。美術好きには応えられない1冊となるでしょう。