ジョゼフ・コーネルはアメリカの芸術家。
川村記念美術館で、小さな箱の中に閉じこめた物語のような作品をひと目見たときから、その世界観にひかれ、もう一度見たい、もっと知りたいと思いつづけていた。
新聞の書評で伝記の翻訳が出版されたことを知り、手にとってみたら五百ページの大作。
読みきれるかどうか心配だったけれど、結果は杞憂でした。
読みすすめるごとにおもしろくなって、あっという間に読みきってしまった。
早逝した父親とすごした時間。障がいを持つ弟の介護。束縛する母親との確執。
踊り子たちと映画への、ほとんど執着と言っていいほどの情熱。
生身の女性に対する、抑圧された欲望。
幼い日に夢の時間を過ごしたペニーアーケード。
星の運行や、庭にやってくる鳥たちへの興味。
「天文台」と呼んだ自宅の台所で、あるいは蒐集品に埋もれた地下室で、コーネルはそれらすべてを、小さな箱とコラージュ作品の中に閉じこめようとする。
やがて箱が世間の耳目を集めるようになっても、自分の「作品」に寄せられる評価に対して、彼はほとんど頓着しない。
それどころか、自ら創りあげた小宇宙への執着から売ることを拒んだり、小さな子供や町のウェイトレスにぽんと箱をあげてしまったりする。
本書に添えられたポートレイトの中で、晩年の芸術家は庭の安楽椅子に腰掛け、物憂い表情をうかべている。
人は誰もある種の「ゆがみ」と共に生きていて、それはときに孤独の名で呼ばれるけれど、おそれずに奥へ、奥へと分け入っていくと、自分ひとりの世界ではない、多くの人と共鳴する、つながる広場に出るのかもしれない…というようなことを考えた。