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なんともいえない気持ちとともに、あわれみの視線を
投げつける周囲の心無い人たちへの嫌悪が、
主人公の心の中でざわめく、繊細な感情を描いている。
ほかの短編も、すべてピュアで、ていねいに
心の動きが書かれています。
本当にすばらしい作品で、とっても感動し、共感しました。
愛すべき一冊です。
ちなみに、田辺聖子さんは、38歳で結婚されたそうです。
世間から身を隠すようにして生きてきたジョゼは、本だけが外の世界への入口だった。その狭い入口をごく自然に広げてくれた恒夫へジョゼが抱いた恋心は、純粋すぎてせつなかった。いつも辛らつでいじっぱりなジョゼが、恒夫と結ばれた時に発した言葉があまりにも素直でいしらしくてたまらない。
「アタイ、好きや。あんたも、あんたのすることも好きや」というセリフは、
死ぬまでに一度は言ってみたいせりふだと思った。
こう要約してしまうと、貧乏くさい、現実べったりの恋愛小説かと思われるかもしれないが、田辺聖子の小説にかぎってはそうではない。そう思わせておいて、ここに仕込まれた人間洞察や恋愛心理、若い男の肌ざわりや、女の体が発するエロスには、わかる人にはわかるはずと精魂傾けた小説家の、手練手管がある。恋愛は、現実を超えた夢のなかでしか成就しないという苦い認識が、「甘い」とみせた小説に、苦みや重さを与える。人の心に残る。
題名の「虎」が不思議な感じだが、好きな男の人ができたら、その男とこの世の中で一ばん怖いものが見たい、そう言って、動物園に虎を見につれていってもらうところからきている。「もし(好きな男が)出来へんかったら一生、ほんものの虎は見られへん、それでもしょうない、思うてたんや」。この哀しいまでの告白に、愛情をもってこたえる若者の、なんとすがすがしいことか。
「恋の棺」は、若い甥の心と体を翻弄し、その恋を棺のなかに閉じこめて永遠のものにしようとする年上の女の、フランス映画(ひと時代前の)でも見ているような香気ある一篇。小説の背後には、「われら、山頂の黒き土に巨なる穴をうがち、人知れず恋の棺を埋めむ」という西条八十の甘く切ない詩が揺曳し、恋の幕に手をかけて艶然と微笑む女の姿と、恋の虜となった若者の夢みがちな瞳が、闇をへだてたホテルの窓ガラスに映える。この一瞬の観客となることこそ、小説の醍醐味、と思わせてくれるモノスゴイ秀作。
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