シェークスピアの他の作品と同様、芝居の脚本として書かれているため、まわりくどく、大仰で、理屈っぽい言い回しが多いが、シェークスピアの作品としては珍しく卑猥な表現や翻訳家泣かせのダジャレがない。「ローマ人の物語」の著者・塩野七生がこの作品について、プルタークの「伝記」を参照して書いてあるだけで、史実ではないと批評しているが、そんなことはどうでもいい。例えば日本でも、赤穂浪士の討ち入り事件に刺激されて「仮名手本忠臣蔵」が書かれ、現代に至ってもさまざまな忠臣蔵の小説、映画、テレビ番組が作られているが、大石東下り、南部坂雪の別れ、赤垣源蔵徳利の別れ、神崎与五郎詫証文その他の名場面が史実ではないのを承知のうえで、国民はそれを鑑賞しているのだから。シェークスピアの作品についてはさまざまな翻訳があり、他の翻訳を読んでいないので本書の翻訳がどうなのかわからないが、文章は読みやすく活字が大きく何も不満はない。上記のプルタークの「伝記」についても巻末に詳しく引用されているので、有益である。