とうとう実戦の時を迎え、たいていのアメリカ人と兵士たち自身がそう信じているとおりに、自分たちは指揮官たちと同じくらい戦う覚悟ができているのだろうか、とスオフォードは疑問を抱く。軍人の家系に育った好奇心旺盛な若者が、自らの役割への疑問に悩む鍛え上げられた兵士になるまでの長い道のりを、スオフォードはフラッシュバックを巧みに用いながら描いていく。若き兵士たちがイラクの砂漠に送られようとしているいま、本書は彼らに、またごく普通の読者にも、現代の戦争の孤独と残忍さと、その政治面に対する洗練された分析を―― そして本能的な反応を―― 率直に描き出し提示している。
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全米一の影響力をもつといわれる超辛口評論家、ミチコ・カクタニ氏が『ニューヨークタイムズ』紙書評で「戦場で敵との激突に備える兵士たちを、恐怖と退屈と孤独と猥雑のリズムで描ききった最も優れた湾岸戦争の記録であるばかりか、戦争文学の最高峰である」と絶賛。発売直後から10週以上も全米でベストセラーを記録し、日本でも原書が『ニューズウイーク日本版』などでも紹介され、邦訳が待ち望まれていた。
「ジャーヘッド」とは「海兵隊員」の意味である。それは彼らの髪型が高く刈り上げてお湯のポットの形をしているからだが、ジャーヘッドには他にも、「ラバ、うすのろ、ばか、大酒飲み」という軽蔑的、自虐的意味もある。完全志願制で勇猛果敢さを標榜し、海外派遣の尖兵でもあるの海兵隊のマッチョなエリート意識の裏返しでもあるのだ。
著者のアンソニー・スオフォードは、戦場でも『イーリアス』や『ニーチェ』、カミュの『異邦人』『シジフォスの神話』を読みふけり、ベトナム戦争で心に傷を持つ父や離婚した母を思い、精神疾患の姉や妹に心をはせ、戦友たちの汚いスラングに耳をふさぐような、心優しく繊細な若者だ。
そのスオフォードが、日常的でないマッチョな生き方を海兵隊に求めて、親の反対を押し切り十八歳で自ら志願して入隊してから「世界一の狙撃兵」としての訓練を受ける。
出撃が決まってから、戦友とともに、「一番最近の戦争」であるベトナム戦争の映画を手当たり次第に観て、「ベトナムを描いた映画は大部分が反戦だという話を聞く。メッセージが戦争だから、それは非人間的で冷酷無残だったというのだ。……だが実際は……どれをとっても好戦的だ……それは戦争擁護の映画だ。……映画に描かれる死と山をなす死骸は、闘う者にとってはポルノグラフィ」と述悔するのだ。
湾岸戦争の最前線に出て糞たれ場 (砂漠に掘った便所) の清掃を命じられるなど上官から受ける屈辱に耐え、友軍による誤爆を受け、何百という敵兵の死体を目撃し、死体とともに過ごし、駐留地の女を愛し別れ、裏切り裏切られ、死んだ友を追憶して泥酔し乱闘し、家族を思い、自殺未遂や殺人未遂さえおかす……。ローリング・ストーンズやレッド・ツェッぺリンが大音量で響く灼熱の砂漠に繰り広げられる戦争のなかで、スオフォードは自分の人生を細大漏らさず綿密にフラッシュバックし、未来をフラッシュフォワードしながら、生きることの意味、大義を突き詰めようとする。彼らには抽象的な戦争の大義とか、人類の文明とか平和とかは関係ないのだ。
本書は瑞々しい若者の感性、研ぎ澄まされた観察力と思想性、良質の文学性が全編に充溢している希有なノンフィクションである。日本や世界じゅうがキナ臭くなっている現在ぜひ読んでいただきたい1冊。ひとりの個人が戦場に行くとはこういうことなのだ。
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