本書はメガバンクの銀行業務を描いている。同系統の作品に「トップ・レフト」(黒木亮著)があり、それは邦銀vs外銀の熾烈な戦いの、ロンドンにおけるユーロ・クレジット市場での国際金融読本的小説である。一方で本書はメガバンクの総花的な金融業務読本的小説である。メガバンクの金融業務全般を知るには面白いが、正直言って小説としては話の展開も深みもあまりないと言える。舞台はメガバンク(東西、桜花、ABC銀)の一角、東西銀行各本部と新宿西支店。その個人営業本部、個人営業推進部、戦略営業本部PB第一部、FA、エリアマネジャー、そして投信販売、富裕層取引といった語句が始めに登場するので、当然にPrivate Banking、Retail畑で話が進展すると思いきや、法人営業部の法人取引先の資金調達で、シンジケート・ローンだのクレジット・ラインだのIPOだのとWholesale分野にも話が及ぶ。また金融、銀行用語、業務内容の説明等が加わり、どうも取りとめがつかない欲張った内容になってしまった感がある。そもそも個人富裕層取引や、そこで発生する投資信託の販売におけるトラブルを描いているのだから、このPrivate Banking部門だけのスリリングな展開の方が良かったと思う。江波戸哲夫氏は、「団塊世代の二万二千日」というドキュメンタリーや、「会社葬送(山一證券)」、「神様の墜落(そごうとIBJ)という企業の実話は、実に切れ味良く素晴らしい筆致である。一方で「部長漂流」「不適応症候群」といった小説はどうも波長が合わなかった(ブックレビューも書かず)。ところで本書の中で東西銀行新宿西支店の若手担当者が老人に投信を販売、リーマンショックも相俟って家族からのクレームの描写がある。トラブルを避ける為、投信は商品内容を理解してから買って欲しい。目論見書をよく読んで欲しい。