まるで指先から3次元のオブジェを捻りだすように、キャンバスの平面に対象を浮かび上がらせる、すなわち見える物を見える通りに描くという不可能にシジフォスの如く立ち向かうジャコメッティ。モデル・ヤナイハラは、己の鼻の頭ただ一点を来る日も来る日も描いては消し、消しては描く狂気の如きその挑戦にとことん向き合い、苦悩する友人を時に励まし、時に叱咤し、突き放す。それでも、静と動、光と闇が拮抗しながら分かちがたく結び合うように、互いは互いを称揚し、批判し、深く認め合う。二人の奇妙な友情はモデルと表現者という枠を越え、広く芸術や文学や哲学を巡り議論を交わしながらまだ誰も見たことのない真実に向かって共に突き進む。20世紀半ば、パリの下町を舞台にこれほどの魂のぶつかり合いが繰りひろげられていたことに、ただただ圧倒され、感動する。