イスラム国家樹立を目指すイスラム主義運動は衰退しているというのが本書の主張。過激なテロに走るのは衰退のなによりの証拠。多数派は現状の議会制民主主義の枠内で生きていくことを選択する。
本書の基本的な主張に賛同できる点が多い。イスラムの保守化、イスラム政治運動の拡大と脅威を煽るメディアや研究者が多いなか、本書の分析は極めて冷静である。しかしあくまで暴力的なイスラム主義の衰退であって、本書の結論にもあるようにイスラム主義運動が民主主義制度に適応しながら発展している例も多い。
分析手法は非常に政治学的である。
「イスラム主義運動は、イスラムを文化的準拠点とし、分裂した社会を和解させるというスローガンのもと、そうでなければ対立していたであろうさまざまな社会グループ(都市貧民、農民、学生、王宮のとりまきなど)を結集することに成功したとき、強力な存在となる。…文化的・宗教的アイデンティティだけでは一体性を保持することが困難になったとき、運動は衰退する」
「20世紀末のイスラム世界の既成権力の大部分がとった論理…イスラム主義運動のさまざまな構成要素間の分裂を促進し、貧困都市青年層とかれらを代弁する非妥協的なひとびとを抑圧し、政治システムへの参加をのぞんでいる敬虔な中産階級と協力する」
つまりイスラム主義運動への支持の広がりを社会階層の分裂/融合から分析し、加えて政権による抑圧/取り込みを二次的な要素として検討するという極めて明快な手法である。とりわけ「なぜイラン革命は成功したのに、他の国では失敗したのか」という問いに対する答えは十分得られている。
各国の資料を網羅しており、600頁以上の大著は比較的にイスラム主義を見渡すヒントが多い。しかしサンプル数が多すぎ、また社会的、宗教的なそれぞれの国の前提が違いすぎるので比較の意義が次第に低下していくことは否めない。