オーストラリアで大学教授を務める著者が全世界に向けて発信した、ジェンダー・スタディの最新の諸理論をわかりやすく紹介する好著です。
要所々々で「ジェンダー秩序」、「リプロダクティブ・アリーナ」、「社会的身体化」といったオリジナルのキーワードを駆使した解説がなされていて、印象深く読み進むことができます。これらは訳本では太字で表記されています。日本人にはあまりなじみのないオーストラリアの事例や研究者やその著書がしばしば引用されるのは仕方のないところでしょう。
本書を、全くの初学者に入門書として紹介することにはいささか躊躇を覚えますが、ひととおり学んだ人への、知識の整理と次なるステップアップの書としては大いに推奨できます。タスキでは「最近の社会情勢」として、フェミニズムの「勝利」、男性学の発展、バックラッシュ、ネオリベラリズムの衝撃などが列挙されていますが、このうちフェミニズムの帰趨の一つの鍵を握ると思われる「男性学の発展」については、第6章と第7章のそれぞれ終わりの部分で僅かに触れられた後、ようやくバックラッシュや新自由主義による皺寄せとともに第8章で多少の分析がなされるのみです。結局、期待されたほど男性学は「発展」していないからかもしれません。また、「民間移転」をはじめとするネオリベラリズムによる一連の経済戦略の影響で、性別役割分業の解体がジェンダー・ポリティクスの傍流に追いやられつつあるという憂慮すべき現状は、現在最も真剣に取り組むべきジェンダー研究の課題でしょう。