ジェンダー論について、深く啓蒙する書であるとともに、
普段、何気なくあるいは無意識に前提してしまっていて、
その矛盾に気づかずに加担してしまっている物事に対して
強く目を開かせてくれる。
そんな本当の意味で使える1冊であるとともに、世界の物事について
応用範囲の広い書物ともいえよう。
ただし、著者は「考えるプロセス」「思考すること」の重要性を
説いてやまない。悪しき実用主義を有害とさえ述べている。
「わかる」とは「分ける」ことに過ぎず、それはジェンダー論の俗流理解そのものの現状にも通じる。
そして、半可通な利用は確信犯的な悪用をも含めて、偏見の助長、無知蒙昧の蔓延、一層の環境悪化に帰結する。
安易に分けることでもって理解した(わかる)とする傲慢さは、怠惰や心の弱さにもその原因をもつ。
これこそ端的に差別そのものである。そこで起ること、それはすなわち「俗情との結託」と呼ばれるものだ。
世間の大半の書物が、書物本来のもつべき「自ら考える」ことを結果的に放棄せよと連呼しているような
なかで、本書のスタンスは希有のものだ。
上野千鶴子が推薦しているかどうかにかかわらず、本年のベストブックの1冊となろうことは疑い得ない。