ジャック・ロンドンの作品は動物と人間の接点を描いたものでしたが、それらより少し時代が早かったシートンは人間と野生動物の対立を見つめている点で違います。勿論シートンにも動物に対する深い愛情があるのですが、自分自身狼ハンターであったりしていますので、まだ西部の家畜を保護しなければならない人間としての立場との相克が作品のあちらこちらに見受けられます。
この偕成社文庫には原作の中で特に有名な9篇がおさめられています。やはり感動的なのは狼王ロボーでしょう。一群を率いてカウボーイ達からはその賢さと統率力からその地方では王と呼ばれた灰色狼のロボーがとらえられてしまった妻を思うがあまり、普段の冷静さを失いわなにかかってしまいます。腹心の部下達を呼ぶのですがあのロボーがつかまってしまってはと仲間達も救いに来てくれません。それがわかった時、それまでは手がつけられないほど暴れまわっていたロボーは抵抗を止め、牧場の頑丈な杭に鎖でつながれてしまいます。翌朝、カウボーイが様子をみにいくと与えてやった肉や水に一切口をつけぬまま、彼が一群を率いて駆け巡った緑の谷間の方に頭をむけ今にも立ち上がりそうな姿勢でロボーは死んでいます。カーボイ達はこの誇り高い狼を妻を葬った場所の隣に埋めてやります。
シートンの作品の中ではこのように人間と対立しながら最後まで野生の誇りを持ち続けた動物達が主人公となっている作品が特に感動的で、追跡を免れないとわかった時に断崖から自ら身をなげる「だく足のマスタング」、執念の追跡をしてどの猟師も不可能とあきらめていた大鹿を遂に追い詰めたハンターが真正面から対峙したその瞳に神を感じて銃口をおろす「サンドヒル牡ジカの足跡」、孤独な森の王者の一生を描いた「灰色大グマの伝記」などそれぞれ感動的です。この偕成社文庫は児童向けなのですが、清水勝さんのペン画の素晴らしい挿絵も大変印象的です。