幾何学的、あるいは数学的に追究された遠近法と人間の視覚に写るそれとは似て非なるものであることは古来から言及されてきた。人間の網膜自体が球状である限り、平面に描かれる直線は両端で湾曲して見えてしまう。また厄介なことに人間の脳の生理的、心理的な欲求によっても視覚に写る映像は変化しうる。こうした現象を矯正するためにギリシャ、ローマ時代から絵画や建築の分野において様々な工夫がなされてきた。その後のルネサンス期のアーティスト達の遠近法論争はそうした理論と視覚の整合性を求めたディレンマの産物であったことが理解できる。それ故に著者は遠近法を象徴形式のひとつとして捉えているのだ。
本文は78ページほどだが、注釈が107ページ、そして白黒の写真図版が17ページあり、読み進める際にどうしても後半にまとめてある注と図版を首っ引きにしないと、とても理解できる内容ではない。この為に多少不便さを感じるけれど、書かれてある事柄は非常に高度で冷静な研究に基づくもので啓発的であり、また強い説得力を持っている。