主人公エルヴェは町に産業を興す必要に迫られ、妻エレーヌを残し疫病に犯されていない蚕の卵を求めて日本まで旅をするのだが、19世紀当時、このようにフランスの田舎町と鎖国化にある幕末の庄内・信濃地方を三往復も出来たかどうか疑わしく、その点で物語の域を出ないが、その過酷であったであろうユーラシア大陸横断の旅が実に淡々と描かれており、旅の間の博物学的な驚きや異文化経験がほとんど描写されていない分、エルヴェにとって意味のある二つの世界(フランスと日本)のみがクローズアップされている。
後半は少女(芦名星)からの「手紙」をキーとして物語が展開するが、手紙の秘密をめぐって「彼女はあの女になりたかったのよ」というマダム・ブランシュ(中谷美紀)の言葉を受け、「あの女は彼女だった」と呟くエルヴェの言葉はこの物語の核心のように思える(そもそも不妊に悩むエレーヌを置いて卵を求めて旅立つエルヴェというのも象徴的だ)。幻想の少女と幻想の国である日本、そして最後は幻想と化してしまったエレーヌとの日々。眩い光の中、海に沈むエレーヌと湯気に煙った温泉に沈む少女との映像的対比は実に見事だ。
私はバリッコ原作の「絹」は読んでいないのだが、現在のように近代化されもはや多国籍化された世界ではなく、まさに「地の果て」として認識されていた日本とフランスという二つの異なる世界を行き来する主人公が、いつの間にか日本の女性を恋焦がれるあまり、故郷フランスに戻っても家庭においても「異邦人」と化し、何年も繰り返した旅や生活の果てに実感したものはなんだったのか・・。
断片的だが、ここで示唆されるように描かれているのは、まさに「人生という旅」なのではないか。シルクは単なる国境を越えた恋愛映画などではなく、誰しもが経験する男女の出会いを通した「人生という旅」のプロセスや黄昏を描いた幻想的な映画なのだと誤読してみるのも悪くはないだろう。フランソワ・ジラールの映像と坂本龍一の音楽が切ないまでに美しい。