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5 人中、4人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 3.0
著者の思いがよくも悪くも強い本,
By 風狂 (神奈川県川崎市) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: シルクロードと唐帝国 (興亡の世界史) (単行本)
私は著者の中央アジアを中心として中国の歴史を見る歴史観には基本的に賛同しています。しかし、本書にはいくつか難点があります。 第1に、著者の思い入れがよくも悪くも発揮されていて、バランスのよい記載にはなっていません。第2に、歴史の記述は生硬で頭に入りにくく、こなれていません。第3に、文章に品がなく、対立する意見への非難と自らの業績に対する自画自賛が散見されます。第4に、何が事実で何が推測なのか、何が著者の見解で何か学界の定説なのか、といったことがわかりにくく、管見では著者の推測に過ぎないものが断定的に事実であるかのごとく書いてある箇所がありました。 以上の難点について少し例示すると、 (1)序論では従来の歴史観やいわゆる「自虐史観」に対する強い非難が表明されており、日本人が真っ当な歴史観を持てないのは高校の歴史教諭の責任が大きく、本書は高校の歴史教諭に読んで欲しい、という趣旨のことが書いてあります。しかし、そもそもこのような前置きは不要と思いましたし、譬えそうであっても、このように断定的に断罪されると、高校の先生も素直に読めなくなるのではないかと思いました(なお、当方は高校教諭ではありません)。 (2)ソグド人について詳しく書いてあるのは私にとってはプラスでしたが、ソグド人の奴隷売買の契約書や碑文の翻訳等、著者の研究事項(業績)を大きく取り上げて解説するのはいかがなものかと思いました。意味のない解説ではないと思いますが、そんなに詳しく書かなくてもいいんじゃないか、専門書じゃないんだから…、というのが率直な感想です。先行研究で、もっと触れるべきものがあるような気がします(例えば、吉田豊先生の研究など)。 (3)章立ての仕方が体系的でないように感じました。基本的には歴史の流れを追っていく形なのだと思いますが、概説と詳説と時系列記述が混在しており、流れに一貫性がありません。ちなみに、歴史の流れを記載している部分は先述のとおりこなれておらずつまらないと思いますが、遊牧民やソグド人の文化を記載している部分は面白いです。むしろ、ここだけでよかったんじゃないでしょうか。 というところです。 本書のオリジナリティは、ユーラシアの遊牧民族及び中央ユーラシアの交易を実質的に支配したと言われているソグド人と東ユーラシア地域の歴史との関わりがやや詳細に述べられているところだと思います。この点に関しては、現在のところ一般向け書籍では類書も多くなく、本書の存在は貴重です。しかしながら、既に述べたような欠点は、読書中もいちいち気になるほどです。 本書中に述べられていますが、著者の森安先生は一般向け書籍は本書が初めてだそうです。想像するに、一般向けを書くということで、これまで溜まっていた学界への不満や怨恨が噴出してしまったのかもしれませんし、また、編集者との関係も一般書と専門書では違うのに、専門書ノリで自分のやり方を押し通してしまったのかもしれません。(これは私の下世話な想像ですが…) 以上のようなことから、本書は「シルクロードと唐帝国」についての入門書ではないため、遊牧民やソグド人と中国の歴史との関わりについてより深く知りたいという人のための参考書としてであれば推薦できますが、遊牧民やソグド人についてある程度知っている人でないと、間違った印象を得てしまうおそれもある本です。遊牧民やソグド人について知りたい場合であっても、例えば、護雅夫先生の一般向け書籍などを読まれてから手に取るといいと思います。 冒頭に述べたように、私は森安先生の見解には基本的に賛同していますし、ソグド人研究にも貢献されている方なので、より洗練された内容の本を書かれることを願ってやみません。
26 人中、17人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
中央ユーラシアから大胆な歴史像の見直しを迫る,
By
レビュー対象商品: シルクロードと唐帝国 (興亡の世界史) (単行本)
伝統的な日本人の世界史観は「西欧史+中国史+せいぜいその他」といったもので、それも西欧があくまで中心であり、「中国」も中華主義・漢民族中心のものであったが、近年ではこれはもはやゆがんだ一面的なものであるとことが示されつつある。特に日本人は唐代について、「国際的ではあるが漢民族の王朝」「シルクロードを通って様々民族、文物が移動した」というイメージを持ちがちであるが、それらも全て虚妄であることを本書は明らかにしていく。唐は本来トルコ・ペルシア系の民族の流れを汲む王朝で、朝鮮半島や日本出身の人間も活躍できる多民族国家であった。また、これまで「西域」などと呼ばれてきた「中央ユーラシア」が「周辺」でなく世界史の中心舞台であることを示す。特に、ソグド人と呼ばれる人々のネットワークを大いに評価している点が特徴である。 このような観点から、伝統的な世界史像の中で語られて来た「突厥」民族の興亡や、タラス河畔の戦い、安史の乱、西域文化の交流などを大胆に読み替える。これまで「主」とされていたものがそうではなく、これまで取り上げらてこなかったものが「主」であったことが伝統的な漢文史料研究のみならず、現地語の解読や考古学的資料から説得力をもって示され、日本人の東洋史理解が大きく塗り替えられる。 さらには、世界史全体の構図に対しても堂々とあらたな見方を提案しており、知的興奮に満ちた、読み応えのある一冊である。 図版、写真も豊富で、参考文献も特に詳細であり、今後の研究、読書の指針となる。
5 人中、2人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
西域史の新地平を目指す,
By 白河夜舟 (東京都国立市) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: シルクロードと唐帝国 (興亡の世界史) (単行本)
シルクロードも唐帝国もいずれも日本人の興味をそそって止まない研究対象である。それらはいずれも身近にあってなお捉えがたい。なぜならわれわれはこのいずれについても深い理解を持っていないからである。中国は史書に恵まれた国である。しかし隠然たる中華思想はその歴史をゆがめ伝える結果ももたらしている。シルクロードはどうであろうか。海洋が国際交流の主流となってこの方、多岐にわたるこの道筋は忘却の彼方にあった。そこに埋もれていた遺跡や文書は乏しいだけでなく、その発見や解読は遅々としている。中央ユーラシアの歴史はこのいずれの課題にも関わっている。著者は本書によって自らを含む日本の学者グループが到達しつつあるその歴史の最先端を広く江湖に伝えたいと望んでいる。そこでシルクロードの商人としてのみ知られ、多くは謎に包まれたままのソクド人の実態を追い求める。シルクロードを彩る商品として馬や奴隷がクロ−スアップされる。胡人、さらには胡姫についても知見が示される。唐帝国についてはこれを中央ユーラシアの多民族国家として捉え直し、歴代王朝が辺境の経営に腐心するさまを伝える。唐の歴史に転機を画した安氏の乱も隣接するウイグル、チベットとの抗争の中で捉え直される。 中央ユーラシア世界の通説の見直し、さらには世界史の書き直しを求める著者の叙述は野心的である。その所説はなお幾多の詰めを要するものとしてもその指し示す方向は正しいのではないだろうか。
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